あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

(9)ぶっ生き返される

新曲『PA PA YA!!』のスタジオ音源を聴いたわたしは、その音世界が個人的好みの領域から著しく逸脱していること、また、曲がりなりにも食らいつくだけの熱が最早手前の側に残されていないことを、寝起きの煙草を吸いながら案外冷静に受け止めた。

ついに引導を渡されたんだなと思った。しばらくリハビリなどと称して騙し騙しやってきたが、どうやらこれで本当に終わりらしいなと腹をくくった。

万物は流転する──残念だがこればかりは仕方がない。誰が悪いのでもなければ努力や精神論でどうにかなる問題でもない。ただ単にわたしとBABYMETALとがそれぞれに描く軌道のようなもの、これらの重なり合う時期が終わりを迎えたのだろう。わたしはBABYMETALファンとしての自分がくたばりつつあるのを感じた。

そんなくたばりかけのおっさんは、しかし、いわゆる三途の川から引き返すことになる。イルカ並みに察しのいい方ならすでにお気づきかもしれないが、わたしはグラストンベリー・フェスティバルの生配信を観たのだった──そうして訪れる、めくるめくラザロ体験。

第1に、久々にトリオ編成のBABYMETALを見て心が踊った。第2に、ポップスファンを向こうに回して堂々たるパフォーマンスを披露する女の子たちに目頭が熱くなった。第3に、女の子たちの見てくれが持ち前の可愛らしさを活かすスタイルに戻っていたことに安堵した。第4に、神バンドの演奏によるダイレクト感あふれる鋼鉄サウンドが全身の細胞という細胞を揺すぶった。

すべてが渾然一体となってくたばりかけのBABYMETALファンをぶっ生き返した。なかでも楽曲の評価を見直す機会になったという意味で、神バンドによるライブ仕様の演奏が果たした役割は計り知れぬ。個人的に興味が持てなかった『Elevator Girl』と『PA PA YA!!』が、いざライブとなると鼓膜が喜ぶエグいサウンドを呈することが判明し、いずれも好きになれそうな手応えを得たのは大きかった。おまけにあのインド風の新曲である。

何にせよ、わたしはかつてのBABYMETAL熱を7割8割取り戻したように思う。あの夜からというもの、動画を漁るわ、サードアルバムを予約するわ、またライブに行くぞと決意するわで、大はしゃぎの有様なのだ。

細胞が欲しがるサウンド

音楽は、体内に取り入れるの意味において、食べ物同然である。したがって、流行りのスイーツを追っかけまわすとか、年代物のワインに凝るとか、ラーメン二郎へ通い詰めるとか、その他いろいろのクソしょうもない比喩が成り立つわけだが、わたしの場合、そのときそのときで全身約37兆個の細胞が欲しがるサウンド、これの摂取にこだわって音楽を選ぶ。

細胞の欲しがるサウンドに出会うには、やつらの声なき声に耳を貸さねばならぬ。すなわち言葉を離れ、頭を空っぽにし、と同時に五感を研ぎ澄まして、あたかも腹をぐうぐう鳴らしながらデパ地下を徘徊する人のように、ネット空間をうろつけばそれでよろしい。遅かれ早かれやつらの声は聞こえてくる。

そうやって最近見つけたのが、ライジュウとかいうプログレッシヴ・メタルのバンドなのだった。

Raiju - "Away With Words" (OFFICIAL LYRIC VIDEO) - YouTube

ハッハッハ。なるほどなるほど。こいつはなかなかの変てこりんサウンドである。何しろ昨年末のあたりから、スレイヤー7枚、マシーン・ヘッド5枚と、マッチョイズムの塊みたいなプロテイン音楽ばかり摂取していたので、趣向の揺り戻しが起きつつあるのだろう。全身約37兆個の細胞が、草食感、ナイーブさ、ねじけたインテリジェンスなどを欲しがっているのだろう。

Raiju - The Kool-Aid (Official Video) - YouTube

こんな具合でややストレートに鋼鉄魂をぶつけてくる楽曲もある。こうなるといよいよプロテスト・ザ・ヒーローを引き合いに出さざるを得ないのだが、それにしたってこのおじさんたちは何者なのか。演奏の腕は一流だのに全然人気がないんだから、音楽で食っているとは思えないし、今後食える見込みもなさそうだし、生活のほうは大丈夫なのか。ふざけている場合なのか。

彼らの音源を入手したい。アルバムの2枚を取り寄せて耳毛が生えるほど聴き込みたい。何しろ細胞が欲しがるサウンドを摂取しておけばまず間違いないだろうぜと思っている。振り返れば3年前の春、BABYMETALに出会い、ぞっこん首ったけになったのも、畢竟そういうことだったんだと信じている。


【リハビリの進捗状況について】
かつてのBABYMETAL熱を取り戻すためのリハビリは、少しずつですが着実に成果を上げているようです。先日などBABYMETALの楽曲だけをシャッフル再生しながら風呂掃除をしました。

BABYMETAL with AVATAR

今年秋に開催される全20公演の米国ツアーで、ついにBABYMETALとアヴァターの共演が実現する。両者のファンとして、また、両者にいくつかの共通点を見出す者として、このお知らせには俄然気持ちが高ぶった。臀部から大腿部にかけて原因不明のかゆみをおぼえ、なかなか寝つけないほどであった。

さて、両者の共通点とは何だろう。(1)ジャンル横断的な楽曲を作る。(2)ちょいちょいストレンジ感を差し込んでくる。(3)演劇的および劇場型のステージングを志向している。(4)見てくれのインパクトが強すぎてキワモノ扱いされがち。

こうも似た者同士なのだから共演は時間の問題だろうと思っていたが、まさかこのタイミングで実現するとは予想だにしなかった。そこで今回はアヴァターの楽曲をいくつか紹介し、世に言う周知活動をやってみたい。

Avatar - A Statue Of The King (Official Music Video) - YouTube
インタビュー記事によると、彼らは1台のパソコンを共有して楽曲を制作するんだそうだ。だからこそ、このようにパッチワーク的な、いい意味でとんちんかんな代物が出来上がるのかもしれない。ボーカルのヨハネスはクリーンボイスからデスボイス、スクリームからハイトーンまで、様々な歌唱法を自在に使い分ける。

Avatar - Hail The Apocalypse (Official Music Video) - YouTube
わたしはこの楽曲でアヴァターを好きになった。やや定型的と言えなくもないグルーヴメタルを展開しつつも、しかしギターワークに独特の軽やかな味わいがある。これは途中加入したギタリスト(ドレッドではなくカイゼル髭のほう)の趣向に拠るところが大きいらしい。それにしてもこのリフだ。このリフは傑作だ。

Avatar - Vultures Fly (Live at Wacken Open Air 2015 / Proshot) - YouTube
一転してインダストリアルかつディスコテークな楽曲になる。メンバーがマリリン・マンソンの影響を語っているのも納得のサウンドなのだった。話はガラリと変わるが、ネットの書き込みやライブ映像を見る限り、アヴァターは女性ファンの比率が高い。おやと思ってよくよく見てみると、野郎ども結構ハンサムである。

Avatar - The Eagle Has Landed (Official Music Video) - YouTube
民族音楽風の旋律をメタルに落とし込むという手法も、このバンドの持ち味のひとつと考えていいだろう。どこかトホホ感の漂うイントロから重厚なメインリフへの転換、そうしてツインリードのハーモニーによるギターソロまで、実に見事な出来であり、終始楽しく聴ける。そう、アヴァターは愉快なメタルバンドなのだ。

日本国内のファンはアヴァターの来日公演を待ち望んでいる。もし彼らの初来日がBABYMETALによってもたらされるとすれば──いやいや、そんな夢のような展開を期待してはいけない。万が一そんなことが起きたら全身がかゆくなって一睡もできないでしょうが。

(8)リハビリの出発点


かれこれ1年近くBABYMETALを聴かない。新曲のいくつかは味が出てくる程度耳に入れたが、トリオ時分の楽曲や映像に接するのは依然困難だ。我ながらとんでもないナイーブおじさんだなと自嘲する日々である。

けれども、わたしはBABYMETALを好きでいたい。かつての熱狂を取り戻し、またライブへ出掛けて行って大はしゃぎしたい。このシンコペーション的心理状態を解消するには何らかのリハビリが必要だ──とこう考えていたところへ、某音楽誌がSU-METALとMOAMETALのインタビュー記事を掲載する旨の情報を得た。

以前の投稿で音楽と人間とがどうのこうのと不満がましいことを書いた手前、これを黙過するのは卑怯である。無責任である。とんだファック野郎である。そこでわたしは発売日に郵便受けへ突っ込まれてあったPMCとかいう雑誌を貪るように読んだ。

スリップノットのギタリスト、ミック・トムソン(長髪巨漢のほう)は、Wikipediaが報告するところによると以下のような人物である。(1)大の猫好き。(2)インタビューで休日の過ごし方を問われ「1日中マスをかいてるに決まってるだろうが」と答える。(3)初来日の際、右腕に「嫌悪」と漢字のタトゥーを入れるも、のちに母親にその意味を問われ「美しい虹」と答える。

なんというナイスガイだろうか。何しろ音楽を聴くうちに人間のほうにも興味を抱き、人間を知ることで音楽がますます好きになる──こうした現象をわたしは何度となく経験してきた。自分のなかで音楽と人間とが分かち難く一体化するプロセスを度々目撃してきた。

そういった意味で、今回のインタビュー記事はリハビリの出発点になったように思う。内容自体は無論のこと、SU-METALとMOAMETALそれぞれのものの見方、感じ方、考え方、さらには言葉選び、語り口、呼吸、これらの一端が垣間見えたことは、わたしにとって大変有難かった。次第々々に濃い霧のなかへ引っ込んでいくかに思えたBABYMETALが、いま一度、ある程度の実像をともなって眼前に立ち現れるように感じられた。

これを機にリハビリを開始しようと思う。サードアルバムの開封に至っては禁断症状で手がぶるぶる震えるくらいなコンディションにまで自分を整えていきたいし、それができると強く信じるところである。

涙のDownload Japan 2019(後編)


好きなバンドが出るんだろう期待が空振りに終わったダウンロードで、しかしわたしは大粒の涙を流すことになる。この言うなればポロリ事件が発生した経緯について、以下に詳しく書き記す。

スレイヤーの出番に備えて喫煙タイムを取ったのが仇となり、わたしはゴリゴリの地蔵ゾーンに嵌まり込んだ。2曲目が終わったところでこれじゃあんまりだと思い立ち、群衆をかき分けて前へ前へと進んだ。そうしてスレイヤー初心者のおっさんはサークルピットを抜けた先の熱狂者ゾーンに自分の居場所を見つけたのだった。

この3ヶ月余り、わたしはアルバム7枚を入手して予習に励んだ──否、予習などというのは適当な表現ではない。何しろ割合に早い段階で、そのモチベーションはある種の純粋さを獲得したからだ。随分遅まきながらスレイヤーの魅力にあてられ、この界隈で言うところの「もっともっとほら!」状態に陥ったからである。

セットリストの楽曲はほとんど頭に入っていた。周囲の熱狂的ファンによるやっさもっさの大騒ぎにも助けられた。わたしは心と身体とを音楽に向かって投げ出し、足腰の痛みやら、分別臭い自意識やら、灰色の日常やら、そういったものすべてから自分を解き放った。ありていに言ってそれは鳴りしきる麻薬であり、夢のような幻覚のような時間はあっという間に過ぎた。

ふと見ると、男はステージの中央にひとり佇んでいた。スクリーンが映し出すその表情からは、達成感と、名残惜しさと、わたしたちファンを包み込む何やら大きな愛情のようなものが見て取れた。スレイヤー最後の日本公演がいままさに幕を閉じようとしているのだった。

わたしは、ようやく背中が見えて、ようやく追いついたはずのスレイヤーが、トム・アラヤが、その日を限りに遠くへ行ってしまうという現実に年甲斐もなく胸を締めつけられ、居ても立っても居られなくなり、ついには力いっぱいの大声で彼の名前を呼んだ。

そのあたりのどこかでポロリ事件が発生したものと記憶するところである。いや、トム・アラヤが日本語で惜別の言葉を述べる最中だったかもしれないし、彼が鳴り止まぬスレイヤーコールに送られてステージを去る場面だったかもしれない──いずれにせよ、わたしはとっさに眼鏡を外し、溢れ出る大粒の涙を拭った。胸のうちで幾度も「ありがとう」とつぶやきながら。

さて、ジューダス・プリーストを観るわたしの心持は、かつて伊勢神宮にお参りした際のそれにどことなく似ていた。果たしてロブ・ハルフォードは神々しく、そうして何だかちょっと可愛らしかった。

このような具合でわたしのダウンロード・ジャパン2019は成し遂げられた。来年も開催されるのであれば是非参加したい。トリヴィアム! プロテスト・ザ・ヒーロー! キルスウィッチ・エンゲイジ! ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン! アヴァター! もちろんメタリカ、メイデン、スリップノットシステム・オブ・ア・ダウンも観たい! どうかお願いします運営の人!