あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

涙のDownload Japan 2019(前編)


好きなバンドのひとつやふたつは出るんだろう当て込みが外れたので、スレイヤーを山盛りとジューダス・プリーストを少々予習して祭りにのぞんだ。あとは出たとこ勝負で十分楽しめるんだろう腹なのだった。

結論から言ってフェスに住みたい。メタルの轟音に全身を浸しながら暮らしたい。某映画によるとCIAはメタルを拷問に使うらしいが、このわたしにそんなものは一切通用しない。かえって健康で幸福な生活を送ること請け合いである。何にせよ早起きして幕張くんだりまで出張り、すべてのバンドを結構しっかり観た。よって以下に感想めいたものを書き記す。

ライク・ア・ストーム:トップバッターならではの当たって砕けろ精神に浅からぬ感銘を受けた。あの重低音を響かしてよこすミステリアスな楽器が気になる。

アマランス:何となくスクールウォーズの主題歌のような趣きが感じられた。乗りやすいビートとキャッチーなメロディにキラキラとした電子音をからめたサウンドは、こうしたフェスでこそ際立つようだ。

マン・ウィズ・ザ・ミッション:タイトルは知らないがレイジ・アゲインスト・ザ・マシンを彷彿とさすファンキーな楽曲にまんまとヘドバンせしめられた。カメラが頑としてボーカルの顔を映さないのが面白い。

ヘイルストーム:ギターボーカルのお姉さまが目を見張るほど格好良かった。タモさん風に言えば叱られたい。何かひどくつまらない悪事を働いたかどで呼び出され、くどくどと小言を言われたい。冗談はさておき、メイデンっぽいギターのハモりがある楽曲が印象に残った。

アーチ・エネミー:このあたりから急激に人が増えた。内容的にも、凶暴なデスボイス、いかついリフ、ツインリードのハーモニーが満載で、おや来たな、いよいよメタルが始まったのだなという感慨をおぼえた。

アンスラックス:開演直前だった──会場内SEでパンテラが流れ出した瞬間、そう遠くはない場所でモッシュピットが発生した。思いのほか前のほうにいたようで、そのまま熱狂的なファンに囲まれて大はしゃぎするうちに1時間が過ぎた。思うにスラッシュメタルは身体にいい。もしかするとややこしいミュートバッキングに何らかの健康効果があるのかもしれない。

ゴースト:ボーカルが「俺様のキュートなお尻が好きかい?」と問うていた。オーディエンスは「イエーイ!」と答えていた。微笑ましい光景であった。

サム41:うちのメタルガイにも何か弾いてもらうよと言うので、もしや例の『マスター・オブ・パペッツ』が来るかと胸を躍らしたが『パラノイド』だった。とはいえポップパンクは問答無用で楽しい。懐かしい。甘酸っぱい。近くの外国人がぴょんぴょん飛び跳ねながら盛んにエアギターをやっていた。


【後編の予告】
事前に「涙の」などと銘打っておきながら、まさか本当に泣かされるとは思いもしませんでした。それもこれもジョン・トラボルタ似のあの人のせいなのです。

あなたとわたしのトリヴィアム

この2ヶ月余り、わたしはクリスマスを心待ちにする5歳児さながらウキウキ気分で過ごした。というのも、わたしのキイチ率いるわたしのトリヴィアムがグラミー賞のベスト・メタル・パフォーマンス部門にノミネートされていたからである。

結果は惜しくも残念賞に終わったが、2ヶ月にわたって彼らのSNSを見張っていたわたしはトリヴィアムがよりいっそう好きになった。なんと気持ちのいい連中だろうと感心したし、ライブへ出掛けて行って4人の名前を力いっぱい叫びたい衝動に駆られた。

そこで今回はトリヴィアムの楽曲をいくつか紹介し、世に言う布教活動みたいなことをやってみようと思う。

Trivium - Pull Harder On The Strings Of Your Martyr [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
全世界でセンセーションを巻き起こした2作目『アセンダンシー』は、言うなれば「若さ」という棍棒でしこたまぶん殴られるかのようなアルバムである。若さゆえの大胆不敵さと感傷主義とが見事に融合した甘辛い楽曲の数々を、何が何でも体験してほしい。

Trivium - Down From The Sky [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
オールドスクールな内容の『ザ・クルセイド』に続いてリリースされた4作目、その名も『将軍』は、どこを切り取ってもトリヴィアム節と呼ぶほかない唯一無二の個性が鳴りしきる、早い話が名刺代わりの傑作である。やや遅効性なので最低100回は聴くように。

Trivium - Brave This Storm LIVE at Wacken 2013 - YouTube
5作目の『イン・ウェイヴス』がメタルコアへの回帰だとすれば、『ヴェンジャンス・フォールズ』は正統派モダンメタルへの挑戦と捉えることができるだろう。メロディの端々にディスターブドっぽいニュアンスが見え隠れするのはきっと気のせいだ。

Trivium - The Heart From Your Hate [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
バンドは生き物である。したがって、太鼓担当が入れ替わっただけで新たな化学反応が生じ、クソ半端ねえクソ名盤が出来上がるなんてことも、当然ながら起こり得るわけだ。最新作『ザ・シン・アンド・ザ・センテンス』は概略そんなアルバムである。もちろん『サイレンス・イン・ザ・スノー』も決して悪い出来ではないが。

さあ、これであなたもすっかりトリヴィアムファンである。来るべき来日公演のサークルピットでお会いしましょう。

【おまけ】
Trivium - "Beyond Oblivion" (Alex Bent Drum Playthrough) - YouTube
新しいドラマー、アレックス・ベントのプレイスルー動画です。この細川俊之似の若者が「トリヴィアムを救った」とまで激賞される理由を、是非その目と耳とでお確かめください。

(7)鼻で笑っていただきたい

前回の投稿で10代20代の若者を散々アジっておいて無責任もいいところだが、しばらくBABYMETALから離れることにした。

第1に、YUIMETAL脱退による欠落感が依然として埋まらず、今後埋まる見通しも立たないからである。3人のBABYMETALから数々の感動と興奮とをもらってきた身として、そう簡単に割り切ることができない。

第2に、この1年間あれこれ心配したり、落胆したり、憶測したりするうちに、わたしがBABYMETALに抱いていたファンタジーの大部分がへたってしまったからである。いったんファンタジーがへたると楽曲までもがどこか空々しく聞こえるのだから不思議だ。

第3に、プロテスト・ザ・ヒーローの来日公演中止に伴うメンバーのコメント、某フェスのステージに立つトリヴィアムを最前列で撮影したファンカム、先日2回目を観た映画『ボヘミアン・ラプソディ』などを通じて、やはりわたしは音楽と人間とが分かち難く一体化しているようなのが好きなんだなと再認識したからである。

ご覧の通りの体たらくと言うほかない。過去に囚われるのみならず、手前で勝手にこさえた幻想が消え失せただの何だのと嘆くばかりか、BABYMETALに望むべくもないものを望んでいる。鼻で笑っていただきたい。何なら口汚く罵ってもらって構わない──「ごちゃごちゃうるせえな! さっさと失せやがれ、ケツの穴みたいな顔しやがってこの野郎!」とか何とか、その他いろいろ。

畢竟ずるに近づきすぎたのだと思う。だからしばらく距離を置くことにした。そうしていつの日か、心の底からBABYMETAL大好きと言える自分を取り戻すつもりだ。何故と言って、そっちのほうが断然楽しいからである。


【お知らせ】
余程の動きがない限り、次回の更新は「涙のダウンロード・フェスティバル(前編)」になります。

メタルレジスタンスとは何だらうか

映画『ボヘミアン・ラプソディ』の興奮冷めやらぬ今日この頃、ここらでBABYMETALの掲げるメタルレジスタンスとはいったい何だらうかと再考してみたい。

ファンそれぞれの解釈があって然るべき案件である。わたしはあくまでもメタル好きのおっさんだから、「メタルの認知及び地位の向上を目的とする活動」こそがメタルレジスタンスなんでしょうよと、違うんですかと、このように手前の願望丸出しで考える。

したがって将来、オーディエンスの半分やそこらが10代20代の若者で占められる日が、もし訪れるならば、わたしは何ら思い残すことなく身を引くつもりでいる。彼らがBABYMETALを好きになり、BABYMETALを通じてメタルに関心を持ってくれるとすれば、メタル好きのおっさんとして、それ以上の喜びはない。

無論、風向きは悪い。スリップノットのコリィ・テイラーが4年ぶりの新曲『All Out Life』にて「Old does not mean dead! New does not mean best!(古いは死んだを意味しねえ! 新しいは最良の意味でもねえぞ、このクソったれ!)」と怒鳴り散らすことからも察しがつくように、メタルをめぐる情勢は年々悪化の一途をたどっていると言ってまず間違いなさそうだ。

さりとて、とわたしは逆接の接続詞を持ち出したい。時代が変わっても人間の本質というのはそう変わらないはずだし、そうしてまた、メタルには若者を熱狂させるだけの魅力があると信じて止まないからである。

まあ聞いてほしい──何しろわたしもかつてはメタル嫌いの若者だった。ダサいし、臭そうだし、ナイーブさの欠片もないし、変に芝居掛かっているし、演奏テクニックをひけらかすし、あんなの誰が聴くかよと小馬鹿にしてさえいた。しかし、ロックを聴き続けるなかでさらなる刺激を、凶暴性を、魂の救済を求めるようになったわたしを快く受け入れてくれたのが、メタリカであり、パンテラであり、スリップノットであるところの、メタル界のレジェンドたちなのだった。

少しでも心当たりのある者は耳を貸してほしい──メタルにもいろいろある。エモいのもあればシャレオツなのもあるしカワイイのだってある。「古い」は「死んだ」を意味しない。「新しい」は「最良」の意味でもない。メタルレジスタンスは君たちの参加を待っている。

『Apocrypha: The Legend Of BABYMETAL』の感想

年齢を重ねるにつれ世界は既視感に満ちてくる。クソの洪水さながら押し寄せる過去の焼き直しをかいくぐり、自分にとって異質で、新鮮で、なおかつ型破り的なものに出会うためには、それ相応の努力が必要になる。

そんな努力の一環としてわたしが薄汚い手を伸ばしたのが、このグラフィックノベルなのだった。

絵柄について別段の不満はない。これが作者のスタイルなのだろうし、個人的に言って日本の漫画チックな絵柄よりずっといい。けれども、プロットにやや竜頭蛇尾な印象を受けた。キツネ神との会見により世界の危機を知り、生死を超えた転生の旅に出立するまでは前のめりに読める。が、その後の3つの戦いにマンネリ感を禁じ得ないうえ、余計な説明を削ぎ落とした終盤の展開は、読み手にかなりの想像力と思考的跳躍力とを要求する。

思うに、3人を別々の時空に転生させるという筋書きもあり得たのではないか。それぞれのキャラクターが前面に出てくるような冒険を、ときには多元中継的に描き、何だかんだの末に再会させる──そうすることで物語の緊張感を保つのみならず、終盤のカタルシスを底上げする効果が得られたのではあるまいか。

などとクソ評論家気取りでうんぬんするのはこれくらいにして、グラフィックノベルの主題歌であるところの新曲『Starlight』について少々触れておきたい。

わたしはこの新曲をとても気に入っている。何しろ賛美歌的で清らかなコーラスと暴れん坊で泥臭いインストが「聖と俗」、あるいは「天と地」とでも形容すべき乙なコントラストをなしており、見上げる星空の高さと踏みしめる大地の揺るぎなさとが感取せられる楽曲に仕上がっているからだ。おまけにギターがプロテスト・ザ・ヒーローばりの小粋なピロピロ芸をところどころに差し込んでくるとあっては、わたしの鼓膜が大はしゃぎするのも無理からぬ話だろう。

さて、改めてグラフィックノベルの頁を繰ってみる。すると、物語のクライマックス──相手を理解し、痛みを分かち合い、共に困難に立ち向かう場面──は、なかなかどうして感動的だなと気づく。たとえ理想と現実とに最早埋めがたい隔たりがあるとしても。