涙のDownload Japan 2019(後編)
好きなバンドが出るんだろう期待が空振りに終わったダウンロードで、しかしわたしは大粒の涙を流すことになる。この言うなればポロリ事件が発生した経緯について、以下に詳しく書き記す。
スレイヤーの出番に備えて喫煙タイムを取ったのが仇となり、わたしはゴリゴリの地蔵ゾーンに嵌まり込んだ。2曲目が終わったところでこれじゃあんまりだと思い立ち、群衆をかき分けて前へ前へと進んだ。そうしてスレイヤー初心者のおっさんはサークルピットを抜けた先の熱狂者ゾーンに自分の居場所を見つけたのだった。
この3ヶ月余り、わたしはアルバム7枚を入手して予習に励んだ──否、予習などというのは適当な表現ではない。何しろ割合に早い段階で、そのモチベーションはある種の純粋さを獲得したからだ。随分遅まきながらスレイヤーの魅力にあてられ、この界隈で言うところの「もっともっとほら!」状態に陥ったからである。
セットリストの楽曲はほとんど頭に入っていた。周囲の熱狂的ファンによるやっさもっさの大騒ぎにも助けられた。わたしは心と身体とを音楽に向かって投げ出し、足腰の痛みやら、分別臭い自意識やら、灰色の日常やら、そういったものすべてから自分を解き放った。ありていに言ってそれは鳴りしきる麻薬であり、夢のような幻覚のような時間はあっという間に過ぎた。
ふと見ると、男はステージの中央にひとり佇んでいた。スクリーンが映し出すその表情からは、達成感と、名残惜しさと、わたしたちファンを包み込む何やら大きな愛情のようなものが見て取れた。スレイヤー最後の日本公演がいままさに幕を閉じようとしているのだった。
わたしは、ようやく背中が見えて、ようやく追いついたはずのスレイヤーが、トム・アラヤが、その日を限りに遠くへ行ってしまうという現実に年甲斐もなく胸を締めつけられ、居ても立っても居られなくなり、ついには力いっぱいの大声で彼の名前を呼んだ。
そのあたりのどこかでポロリ事件が発生したものと記憶するところである。いや、トム・アラヤが日本語で惜別の言葉を述べる最中だったかもしれないし、彼が鳴り止まぬスレイヤーコールに送られてステージを去る場面だったかもしれない──いずれにせよ、わたしはとっさに眼鏡を外し、溢れ出る大粒の涙を拭った。胸のうちで幾度も「ありがとう」とつぶやきながら。
さて、ジューダス・プリーストを観るわたしの心持は、かつて伊勢神宮にお参りした際のそれにどことなく似ていた。果たしてロブ・ハルフォードは神々しく、そうして何だかちょっと可愛らしかった。
このような具合でわたしのダウンロード・ジャパン2019は成し遂げられた。来年も開催されるのであれば是非参加したい。トリヴィアム! プロテスト・ザ・ヒーロー! キルスウィッチ・エンゲイジ! ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン! アヴァター! もちろんメタリカ、メイデン、スリップノット、システム・オブ・ア・ダウンも観たい! どうかお願いします運営の人!