あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

(11)あんたのどれいのままでいい

『METAL GALAXY』を毎日浴びるように聴き続けて3週間余りが経過した頃、わたしの内心にとある思いが去来した──なんつーかこう、もっとメタルを好きになりたいなあ。全部のアルバムを取り揃えたくなるバンドにもっともっと出会いたいなあ。

得意のなぜなぜ分析はひとまず、いや、永遠に脇に置くとして、わたしはこの内なる声に従うことにした。今後はメタル好きからメタラーへ、メタラーからメタル超人へと進化もしくは退化を遂げるべく、趣味の時間を割くつもりだ。簡潔かつ曖昧に言って、これが3年以上のらりくらりと続けてきたブログをたたむ理由である。

BABYMETALにはありがとうの気持ちしかない。何しろ女の子たちに出会う前のわたしはメタル村の限られた界隈をうろつく半端者にすぎなかった。それが村のいろいろの場所へ出歩くようになり、以前は興味が持てなかったバンドの数々を好きになり、さらには、一丁前にメタルを語り散らかす分厚い面の皮まで身につけた。モチベーションを与えてくれたBABYMETALにあらためて心からの感謝を捧げたい。

チームBABYMETALのみなさま、楽しい時間をありがとう! 最高のライブをありがとう! たくさんの笑顔と感動をありがとう! それからもうひとつ、文章を書く喜びを思い出させてくれてありがとう!

無論、今後もBABYMETALを応援していく気持ちに変わりはない。いつかまたライブにお邪魔するかもしれないし、我ながら気の早い話だが4枚目を首を長くして待とうと思う。要するに、いつだって心にキツネサインを掲げて生きていくんだぜと、あんたのどれいのままでいいんだぜと、わたしはここに宣言し、そうして、満ち足りた気持ちで筆を置くのである。おしまい。

【謝辞】
クソ偏屈者が書くとしか思えないこのようなブログに多少とも関わりを持ってくださったみなさま、ありがとうございました。励みになりました。



追伸:近頃は以下のバンドに夢中です。質実剛健にして奇想天外な音楽性にくわえ、元キルスウィッチのハワードを彷彿させるエモいスクリームにぐいぐい揺すぶられます。しかもギターが歌うんです。スクリームの裏側でそれこそ歌い上げるんです。ときにはブルータルに、ときにはメロウに、ときにはスペーシーに、いわゆるギターメロディが変幻自在の変態(以下略)

METAL GALAXY WORLD TOUR IN JAPAN さいたまスーパーアリーナ公演(11月16日)

左隣は長野から遠征のお兄さんだった。音楽を聴くところへ話しかける形になってしまったのにも関わらず、気さくに応じてくださって有難かった。わたしたちは、ファン歴、夢中になったきっかけ、ダークサイドうんぬんなど、随分いろいろの話をした。「もったいない」および「それは可愛い子だから言えることで」のふたつの意見が一致したのが愉快であった。

そうこうするうちにブリング・ミー・ザ・ホライズンのステージが始まった。個人的に彼らの音楽は性に合わないのだが、けれども生で体験してみると、ヘヴィなサウンドを下敷きにしつつ今日的なグルーヴなりエモーションなりをとらえようとする姿勢が伝わってきて、好感を抱かずにはいられなかった。

右隣は岩手から遠路はるばる車でお越しのおじさまだった。溌剌とした話しぶりにくわえて笑顔が何だかきらきらと輝いて見え、いいなあ、BABYMETALを存分に楽しんでいらっしゃるなあと、こちらまでうれしくなった。左隣のお兄さんを含めてわたしたち3人は東京ドーム公演に出席していたため、SU-METALが尻もちをついただの何だのの話でひとしきり盛り上がった。

そうこうするうちにBABYMETALのステージが幕を開けた。座席は400レベルの前から4列目、会場全体が見渡せる悪くない場所だった。わたしたち即席のライブ仲間は「かかってこいや!」とばかりに立ち上がり、女の子たちと神バンドとを迎える準備を整えたのだった。

今回のライブに参加するにあたって、わたしは決意を固めていた。その決意が意味するのは、この70分だか80分だかの大はしゃぎがとりあえずの区切りになるという事実だった。したがって、視るもの、聴くもの、肌で感じ取るものすべてに、一抹の感傷が溶け込んだ。巨大モニターに映るSU-METALとMOAMETALに目をやるにつけ、胸の真ん中らへんにやわらかな痛みをおぼえたのは、おそらくそのせいだろう。

それでもわたしは二度と戻らない一瞬々々に全身と全霊とを投げ出すことができたように思う。他所から見たら「あのおっさんちょっと独特だな」というくらいの有様であったに違いない。何しろ初めての楽曲はもちろん全部が全部すばらしく、現実を超えた何かヌミノーゼ体験のようでもあり、メタル好きの中年男がBABYMETALとともに歩んできた3年半の日々は、そこへ至って無事丸ごと肯定され、称揚され、祝福されたのだった。

もしタイムマシン(ミント味)に乗って2016年4月頃の自分に会いに行くとしたら、自信を持ってこう言ってやりたい──思い切って飛び込んでごらんなさいよ。これ以上ない体験の数々が待ってるんだから。笑って、泣いて、大はしゃぎだぜ? BABYMETAL最高だぜ?


【お知らせ】
次回の投稿をもって当ブログはおしまいになります。

『METAL GALAXY』全曲レビュー(DISC-2)

1. IN THE NAME OF
禍々しい雰囲気が充満するトライバルなイントロダクション。ファンカムでは単調に感じたが、スタジオ音源は終始退屈せずに聴ける。ヴォーカルのごそごそとした質感がちょっとデスクロックを彷彿させる。

2. Distortion (feat. Alissa White-Gluz)
ABABタイプのこの楽曲に必要なのは抜け感のあるメロディアスなCなんですと不満を漏らすのはこのくらいにして、アルバムに組み込まれると不思議としっくりくるメタルコアである。もっとも、わたしはゴリゴリの偽善者なので聴くたびに少々胸が痛むわけだが。

3. PA PA YA!! (feat. F.HERO)
SU-METALの力強く真っ直ぐな歌声にぞくぞくさせられる。何だかこう「押し通る!」といった感じがする。どうやら押し通った先で盆踊り大会をやっているらしく、ゲストにファッキン何とかなるタイ人ラッパーが出るんだそうだ。シュールな音世界に慣れれば慣れるほどキラーチューンと化してくる強烈なお祭りソングだ。

4. B×M×C
『META! メタ太郎』同様の3連符メタルが危険な香りを漂わせて帰ってきた。何やらラップバトル的な催しをモチーフにした的な楽曲と見えて、SU-METALが苦労する的なかたわら、MOAMETALが生き生きとレコーディングに取り組む的な姿が目に浮かぶようである。

5. Kagerou
アメリカ式のグルーヴと日本式の「もののあはれ」とが素敵に溶け合う、誤解を恐れずに言えばハードロック歌謡である。と同時に、SU-METALの新たな魅力が垣間見え、もしわたしが10代の若者なら、すぅ姉さんマジパネース、マジカッチェースと恐縮しつつも、一方で憧憬の念を募らせるだろうことは何ら想像に難くない。

6. Starlight
以前書いた感想を一部引用する──「賛美歌的で清らかなコーラスと暴れん坊で泥臭いインストが『聖と俗』、あるいは『天と地』とでも形容すべき乙なコントラストをなしており、見上げる星空の高さと踏みしめる大地の揺るぎなさとが感取せられる楽曲」だそうだ。確かにその通りだが、何を気取ったことを書いておるのだ。

7. Shine
歌い出しに衝撃を受けた。様々な感情がひとつの歌声に織り込まれるのみならず、強さと弱さとを併せ持つひとりの女性としてのSU-METALがはたと目の前に立ち現れるように感じられ、誇張でも何でもなく、胸が詰まった。『Tales of the Destinies』が「動」のプログレだとすれば、こちらは「静」のプログレであろう。

8. Arkadia
BABYMETAL史上最強のクサメタルが誕生した。初めて聴いたときはあまりのクサさに鼻が直角に曲がったが、わずか数回で耐性がつき、それからというもの毎回泣きそうになる始末だ。少し力んだような歌声がかえってエモく聞こえるし、「光より速く」からラストへ至る2分弱の多幸感と絶頂感はちょっと筆舌に尽くし難い。

【総評】
鋼鉄の鼓膜がおおむね満足する内容である。過去2作に比べてメタル的に不足を感じる部分もあるが、そこらへんは意図的かつ戦略的な判断の結果に相違なく、一介のファンがあれこれ言っても仕方がないと思って諦めていきたい。何にせよラスト3曲、いや、『Kagerou』を含めた4曲がとんでもない出来栄えで、すっかり満足してまた『FUTURE METAL』から聴くというのを日々繰り返している。中毒状態もいいところである。

『METAL GALAXY』全曲レビュー(DISC-1)

1. FUTURE METAL
お上品なヒップホップ+無機質なジェント+キラキラ電子音=未来のメタル。わたしは汗臭い職人的芸当を尊ぶ人間だから全然そうは思わないが。

2. DA DA DANCE (feat. Tak Matsumoto)
90年代の音をぎゅうぎゅう詰め込んだ言うなればエイベックスメタル。あの界隈の誰かをオマージュしたとしか思えないMOAMETALのラップを含め完全に笑わせにきているが、それでいて小憎たらしいほどよく出来ている。メタル方面から聴いても充分なアグレッションを有しており、こうなったら全力でフォーするしかない。

3. Elevator Girl
近所の寺に格言が掲げてある。先日「禍福は糾える縄の如し」というのを見て、この楽曲に思いが及んだ。いつだったか「敬して遠ざけよ」というのを見たときは、なるほど、パンテラの『ウォーク』だなと思った。何にせよ、いかついリフとかわいい歌の対比がすばらしい。

4. Shanti Shanti Shanti
ぐるぐると螺旋を描くようにして陶酔感が増していくサイケデリックな楽曲構成がクセになる。「舞い上がれよカルマ」でぶち上がり、「ヒュールーリーラー」でさらにぶち上がる、この繰り返しとあっては、うっかり我を忘れるのも無理からぬ話である。ライブが楽しみだ。

5. Oh! Majinai (feat. Joakim Broden)
キリル文字圏のヴァイブスが漂うフォークメタル。馬鹿カワ楽しいのだが、ギターの可動域の狭さには正直閉口する。ツインリードが「ないななないない」のフレーズをハモりを交えつつバッキバキに弾き倒すくだりなどがあれば、たったそれだけで楽曲に変化がつくし、メタル好きは大喜びしたはずだ。ライブに期待したい。

6. Brand New Days (feat. Tim Henson and Scott LePage)
おっさんが目を閉じて聴き入っていると自分を見失うおそれがある、ガーリーでエアリーでオッサレーイな4分11秒をあなたに。ポップス好きへの撒き餌なのか、メタル好きへの三行半なのか、はたまたSU-METALのセカンドキャリアへの布石なのか──いずれにしろ、この歌声は麻薬的である。最上級の褒め言葉である。

7. ↑↓←→BBAB
グループイノウの『ハート』が真っ先に思い起こされ、次に電気グルーヴの『ハイスコア』が記憶の奥底から這い出てきた。そんなことはどうでもよい。気持ちのいい男達やらゲーセン魔人やらも無論どうでもよいのだ。

8. Night Night Burn!
ポップスとメタルの融合という意味で完成度が高く、また『Oh! Majinai』などに比べるとギターワークが格段に面白い。けれども例えば『ヘドバンギャー!!』と並べた場合、インストの弱さは否めないところだ。とはいえ近頃「オレオオレオ」からの「ナイナイバーン」が頭ん中を駆け巡っている。歌詞はまだうろ覚えである。

【総評】
鋼鉄の鼓膜が満足する内容ではない。しかし見方を変えれば、このDISC-1はポップス界隈に向けたプレゼンテーションととらえることもできる。すなわちメタルをポップスに落とし込む際の具体的手法が提案されているとこう考えることもできるわけだ。わたしはと言えば、いかにもBABYMETALらしい逸脱が愉快なのと、普段耳にしない音の数々が新鮮に感じられるのとで、DISC-2と合わせて重度の中毒状態に陥っている。

『METAL GALAXY』レビュー

BABYMETALの新作『METAL GALAXY』をぶるぶると震える手で開封しながら、わたしはほとんど祈りを捧げていたと言っていい──妙ちきりんな楽曲が山盛りの予感がするけれども、どうか好きになれますように。どうか500回聴けるアルバムでありますように。

結論から言ってとんでもない代物なのだった。2枚組の全16曲を一気に聴き終えたときの心持ちは、小説に喩えるなら夢野久作ドグラ・マグラ』の読後感にどこか似ていた。何しろカワイイとブルータルとナンセンスとが極彩色の混沌をなす、古今未曾有の音世界が実に緻密に構築されている。日本三大奇書ならぬ日本三大奇盤のひとつに数えられて何ら不思議はない出来である。

DISC-1はアイドルポップ方面に、DISC-2はメタル方面に寄せた構成となっており、90年代風のユーロビートを大胆に取り入れた──などとお利口さんなレビューを書くつもりは、しかし、これっぽっちもない。

このアルバムに底流するのは逸脱をとことん楽しむ姿勢である。普通、世間並、安定志向、そんなものはクソ喰らえの精神である。わたしもそれに倣って、肝心の中身にまったく触れない野放図なレビューをやり遂げる所存だ。楽曲ごとの感想は次回の投稿にて書き散らかしますので何卒ご容赦ください。

それにしてもと感心せざるを得ない。1枚目、2枚目ときて、3枚目がこの内容である。KOBAMETAL氏は24時間365日、寝ても覚めてもBABYMETALのことを考えているんだろうなと思った。当然と言えば当然の話だが、彼のBABYMETAL愛をあらためて見せつけられ、どうだ俺が世界一のBABYMETALファンなんだぜと、グランドチャンピオンなんだぜとこう宣言されたような気がして、わたしは胸を打たれたのだった。

ひとつ全体的に言えることとして、SU-METALの声がより近く、より生々しくなったのには鼓膜が喜んでいる。いくつかの楽曲においては余程の至近距離で歌うようにさえ感じられ、いい年こいたメタル好きが思わずギクリとさせられる始末である。無論、要所々々で輝きを放つMOAMETALの歌声も聴き逃すことはできない。

さて、アルバムはラスト3曲で見事な着地を決める。終始めちゃくちゃなアクロバットを演じてきたのが嘘のように10点満点の着地をやってのける。そこへ至って一段と華々しく放射される鋼鉄魂とチームBABYMETALの底力とを、是が非でも体験していただきたい。

評価:★★★★★(まさに奇盤! 大いなる逸脱と完璧な着地! さあ、笑って踊って泣くがいい!)