あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

とんでもなく頼もしい

BABYMETALが現在もカラオケでライブをやっていたらと考えることがある。

ここまで夢中になれただろうか? ライブDVDやネット動画を繰り返し観ただろうか? まして東京ドーム公演のチケットを手に入れただろうか?

何しろ人間の半分はつまらない偏見、ろくでもない先入観、および糞みたいな固定観念で出来ている。それらを取っ払って物事を見ることの難しさは誰もがよく知るところである。もし最初に観たライブ動画が神バンドなしのカラオケだったら、わたしはそれを「学芸会」の3文字で片付けたかもしれない。そうして二度と女の子たちに関心を寄せなかったかもしれない。

ちょっと泣いてしまいそうになる。いくら何でもあんまりだ。そんな馬鹿なことが、いや、しかしながら、可能性としては起こり得たと言わねばならない。

こう見えて若い頃ギターをかじっていた。

いくつかのコピーバンドでオアシス、グリーンデイ、ジ・ミッシェル・ガン・エレファントなどをまあまあ上手に弾いていた。

誤解のないようにしておくが、これらをまあまあ上手に弾くために必要なのは、有り余る時間と、少しばかりの忍耐力と、モテたいという願望のみである。センスのある人間なら1年やそこらであっさり到達し、素通りするレベルと言っていい。

しかし、そこに思いっきり楽しむというマインドさえあれば、上手いか、下手かは、関係ねーらしい。事実、当時の音楽活動はわたしにとって人生最良の思い出のひとつになっている。よくもまあ恥ずかしげもなくギターケースなんかを背負って出歩いていたなとは思うが。

かつての相棒であるテレキャスターは現在、ものであふれた部屋の片隅でオブジェと化している。数年前に衝動買いした黒のレスポールも、ほとんど鳴らされぬままに同じ運命をたどった。

さて、神バンドとは何か。

第1にそれは仲介者である。わたしのような狭量で意地っ張りな音楽フリークと女の子たちとのあいだを取り持つ、考え得るかぎり最高の橋渡し役である。

第2にそれはかつて見た夢である。若い頃のわたしのようなギターキッズから、真剣に音楽と向き合い、音楽の道を志し、そうして道半ばで敗れ去った者にいたるまで、すべての楽器経験者、バンド経験者がかつて鮮やかに思い描いたヒーローの姿そのものである。

第3にそれは、わたしたちファンの最前線で女の子たちを支え、応援し、勇気づける、とんでもなく頼もしい白塗り野郎どもである。

ありがとう神バンド。最大限の敬意を込めて。

東京ドーム

東京ドーム公演のチケットが当たった。まさかの急展開に自分でも驚いている。

何しろ当初は静観する構えだった。へええ? 東京ドーム? 2日で11万人? いいなあ、さぞかし盛り上がるんだろうなあ、いつか生で観てみたいなあBABYMETAL、といった具合に得意の先送り主義を決め込んでいたのだ。

そんなある日、わたしは禁断の盗撮映像を目の当たりにする。某夏フェスのステージを隠し撮りしたらしい数十秒足らずの動画だった。

何が起こるかなと思ってスマホの画面を凝視していると、いまやメタルクイーンとして世界に名をとどろかすSU-METALその人が、どういうわけか両手でマイクを握り、いつになくもじもじした様子で以下のような言葉を発したではないか。

「みんなの声聞かせて? 一緒に歌ってくれる?」

わたしは急性かわいい中毒を発症した。「なーにーそーれーかーわーいーいー!」が第一声なのだった。そこへ手足をばたばたさせる謎の運動が加わって、もはや自分が自分でなくなるような危機感をおぼえた。気持ちを整理すべく居間と台所とを行ったり来たりしていると、にわかに自分自身に対する怒りが湧き上がってきた。

ぐずぐずしやがってこのインポ野郎! お前の「いつか」や「そのうち」にはもううんざりなんだよ! 行けばいいでしょうが東京ドーム! 米粒だの音響だの仕事だのって細けえこたぁどうでもいいんだよ! とにかく行け! 女の子たちに会いに行け!

そんなわけで来月の20日、わたしははじめての生BABYMETALを体験することになる。

東伏見稲荷神社

車で1時間ほどの界隈にちょっと有名なお稲荷さんがあるというので行ってみた。

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何でも例の伏見稲荷大社から分霊してもらって建てた神社なんだそうだ。境内に足を踏み入れた瞬間、わたしの脳内で『メギツネ』の再生ボタンが押されたことは言うまでもない。

わたしは女の子たちの健康と、旅の無事と、さらなる活躍とをお祈りした。

すると、どこからか威厳に満ちた声が聞こえてきた。「そのことなら心配はいらん。すでに根回しは済んでおる。お前が祈ろうと祈るまいと、女の子たちの未来は約束されておるのだ。それはそれはキンキラリーンであるぞ」

うすうすそんな気はしていた。

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ちなみに本殿の裏手はこういう具合になっている。

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いろいろの神様が祀られてある。あのちっさいキツネが欲しかったのだが、社務所には売っていなかった。

ほとんど魔法

わたしの見立てによれば、メタル音楽はマッチョイズム(男っぽさの誇示)とナルシシズム(自己陶酔)の混合物である。

その混ぜ合わせはバンドや楽曲によっていろいろだが、例えば「あのバンドは7:3の割合でナルシシズムが強いね」とか、「やつらは8:2でマッチョイズムを前面に押し出しているぜ」などといった言い方が、少々乱暴ではあるができるように思う。

個人的に言ってナルシシズムの強いメタル音楽が苦手だ。例のハイトーンヴォイス、自慰主義的なギターソロ、嫌に扇情的で仰々しいコード進行など、何もかもが生理的に無理なのだ。架空の嘔吐感をもよおすほどである。

ではBABYMETALの音楽はどうだろうか。

話をわかりやすくするために、SU-METALのソロ曲『紅月-アカツキ-』を例に考えてみたい。

まずはこの楽曲を男子が自己陶酔感たっぷりに、腰をクネらしながら歌うさまを想像する。ガクトでも、ハイドでも、エグザイルでも、とにかくナルシストっぽい男なら誰でもよい。

勘弁してください!もう許してください!お昼に食べた架空のナポリタンを比喩的に嘔吐してしまいそうです!

当然こうなる。

楽曲そのものがすでに相当量のナルシシズムを含有しているからだ。

ことにザラつくギターのアルペジオではじまるイントロ、そうしてツインギターが織りなす間奏部分は、俗に言うクサメタルの真骨頂と形容すべき代物である。そこへさらに男のナルシスティックな歌声が加わろうものなら、わたし個人の感覚としてはほとんど拷問だ。犯してもいない罪をうっかり自白しかねない。

では逆にSU-METALが歌うことで何が起きたのか。

彼女の真っ直ぐで、ひたむきで、外連味のない歌声によって、本来ナルシシズムの強い楽曲それ自体が何かしら別のものへと変質したのではないか、というのがわたしの見立てである。

そうでなければ筋が通らない。わたしのようなナルシシズム・アレルギーの人間がこうも心を揺すぶられるはずがない。

BABYMETALの音楽ではこのような化学反応がいたる場所で起きている。メタル音楽特有のナルシシズムは消臭され、中和され、分解されると同時に、より普遍的な意味での美しさや純粋さ、さらには気高さや勇敢さといったようなものへと変化を遂げている。

そのひとつひとつの瞬間に、年齢、性別、国籍を問わず多くの音楽ファンが長年待ち焦がれていた、いまだかつて誰も体験したことのない、まったく新しい物語が紡ぎ出されているのである。

これはもう、あれだ、ほとんど魔法。

『METAL RESISTANCE』レビュー

1. Road of Resistance
レジスタンスという言葉には何かしら特別な響きがある。そうしてこの楽曲には、数分前の自分を、いや、数秒前の自分さえも置き去りにする凄まじい牽引力がある。ミキシングがまずくてシャバシャバ聞こえるのが残念だが。

2. KARATE
メインのリフが震えるほどカッコイイ。AメロとBメロの背後で鳴るややこしい刻みも失禁するほどカッコイイ。おまけに糞キャッチーなコーラスが一般リスナーの心を鷲掴みにする。どこをどう切り取っても神がかり的である。

3. あわだまフィーバー
つい口すさんでしまう。まんまと釣り込まれてしまう。特に「あわだまポッポッ!」のところがお気に入りである。もっともらしい意味が必要ならファンキー加藤でも聴いておけ。

4. ヤバッ!
BABYMETALに出会う前のわたしがちょうどこんな心境だった。いろいろな音楽に手を出してみるのだがどれも気に入らない。違う、全然違う、なんかちょっと違う。ピッポパッポピー。

5. Amore -蒼星-
つい先日、ボルネオ島に住む少数民族の友人にこの曲を聞かせてみた。彼は満天の星空を指差してから、例の人懐こい微笑を浮かべてこう言った。「よく知ってるよ。神様だろう。まあ、声を聞いたのははじめてだけどね」と。

6. META!メタ太郎
すかんちの発明による野球ロックが野球メタルへと進化を遂げた。最初は何だか調子っ外れな印象を受けたが、ライブ動画を見たら不思議と泣けた。あの踊りは何だろう。いい踊りだ。

ビジュアル系の香りが漂うのみならず、どこかアニメソング風でさえある。SU-METALの歌声に心底惚れ込むわたしとしては、しかし大歓迎なのだった。彼女に手を引かれて夜空を駆け巡るかのような、それはそれは幸せな感じがする。

7. From Dusk Till Dawn
海外盤に収録されている何やらシャレオツな楽曲。個人的にあまりそっち方面に進んでほしくない。メタルは本来ダサいものだ。ダサくてむさ苦しくて人間臭いところが魅力なのだ。

8. GJ!
少し前に尿管結石をやった。拷問じみた痛みに耐えながら、わたしはBABYMETALを聴いていた。痛みはやわらいだか。答えはノーだ。でもあのふたりに「もっともっとホラ!」って言われたら、そらもう頑張るしかない。ない。

9. Sis. Anger
はじめて聴いたとき、わたしはマゾヒストに生まれなかった自分を呪った。しかし諦めてはいけない。「どーしよっかなー?」って言ってるから許してくれるかもしれん。

10. NO RAIN, NO RAINBOW
最近気付いたのだが、どうやらわたしは片想いをしているらしい。言葉を交わすことも、視線を合わせることも、もちろん触れることもできない、ひとまわり以上年下の女の子に恋をしているらしいのだ。アイドルってすごい。感心した。

11. Tales of The Destinies
当初は支離滅裂に聞こえた。◯◯病患者のサイケな夢を見せられるようで落ち着かない気分になった。ところがどうだ。聴けば聴くほど好きになる。体調が悪かったりすると涙が出る。なるほど、これが噂に聞くプログレか。

12. THE ONE
我が心の師匠カート・ヴォネガットが生きていたらと思わずにはいられない。この曲を聴いた師匠はまず間違いなくこうつぶやくだろう。「ナイス、ナイス、ベリーナイス」とか、その他いろいろ。