あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

『BABYMETAL』レビュー

1. BABYMETAL DEATH
メタル稲荷神社へとつづく長い参道をイメージさせる楽曲。鋼鉄の鳥居をくぐるたび、kawaiiメタルの聖地に足を踏み入れる喜びと畏敬の念とを強くするのだ。

2. メギツネ
日本音楽史に燦然と輝く金字塔。日本の伝統文化をふんだんに落とし込んだメタル音楽が世界中のオーディエンスを熱狂させるなんて誰が想像しただろう。これを聴いて身体が動き出さないやつはあっちへ行ってくれ。

3. ギミチョコ!!
正直もういいやと思うことがある。しかし、いったん聴きはじめると気持ちよくなって最後まで及んでしまう。おっと危ない、うっかり下がかり的な比喩を持ち出してしまうところだった。

4. いいね!
最初は苦手だったが聴けば聴くほど好きになる。好きになればなるほどセンチメンタルな気分が起こってくる。平凡なアイドルとして健気に活動する平行世界の彼女たちが彷彿されるからだが、もちろん共感は求めない。

5. 紅月-アカツキ
SU-METALの歌声を的確に言い表す言葉が、果たしてこの地球上に存在するだろうか。いっそ言葉など捨ててしまえばいい。考えるな、感じろ、そして何度でも泣け。ツインギターが織りなすギターソロも必聴である。

重苦しいリフと超絶キャッチーなJ-POPが交互に打ち寄せる、まさにジャンキー製造装置。高い中毒性の秘密はこのサンドイッチ構造にあるようだ。

7. おねだり大作戦
少子化対策に打ってつけの楽曲である。余談になるが友人の娘がぼちぼち言葉らしきものをひねり出しはじめたらしい。スマホをねだるのも時間の問題だろう。友人はあの買って買って攻撃に耐えられるのか。

8. 4の歌
愉快な曲だがワンコーラス多いように感じる。思うにBABYMETALの中毒性は、逆にもう少し欲しいところで楽曲が終わってしまう、その絶妙な不足感にも起因するのではないか。

9. ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト
もちろん共感は求めないが、『いいね!』と同じような感慨を抱かせるダンス・チューン。個人的にはこの楽曲をさらに進化させた70年代風ディスコ・メタルが聴いてみたい。ジグソーの『Sky High』みたいなやつ。

10. Catch me if you can
マッチョでブルータルなサウンドの鳴りしきるなか、女の子たちはかくれんぼに興じる。しばしば外国人がBABYMETALをして「上手くいかないはずのことが驚くほど上手くいっている」と評するが、なるほど言い得て妙だ。

11. 悪夢の輪舞曲
最初は何やら判然としない。しかし、ひとたびリズムをつらまえてしまえば印象はがらりと変わる。恐ろしく技巧的で骨太なメタル・ワルツである。こうも尖った楽曲をアイドルに歌わせるなど、ほとんど狂気の沙汰。

12. ヘドバンギャー!!
わたしにとっては100点満点の楽曲。何もかもが美しく、力強く、それでいて甘酸っぱい。どこかノスタルジックな情景が目に浮かぶ歌詞もすばらしく、非の打ちどころがない。最高である。

13. イジメ、ダメ、ゼッタイ
音楽とは体験である。そうしてこれは是非とも体験すべきたぐいの楽曲である。最初から最後まで歌詞の内容を含めた熱量がちょっと尋常ではない。全身全霊で受け止めたい。あとはぴょんぴょん跳ねるまでだ。

(5)出来上がる

先日、当て逃げをやられた。

白のワンボックスである。赤信号で停止したわたしの車にドスッと追突しておきながら、右折信号が青だったのをいいことに、猛烈なスピードで右折して逃げていきやがった。

わたしはすっかり取り乱してしまった。あの糞野郎のナンバープレートを漏れなく記憶することができなかった。

相手を特定できない可能性もあると警察官は言った。もし特定できたとしても、それに先んじて相手が証拠隠滅を図っていたならば自白を引き出すのは困難だろうとも言った。

わたしは思いのほか平和的な気分だった。

偶然にも新しい車に乗り換える話を進める最中だったからである。

しかし、わたしが怒りや復讐心などといった下卑た感情から自由でいられた本当の理由は、すでにわたしがBABYMETAL中毒者として完全に出来上がっていたからにほかならない。

事実、このときわたしの脳内では『いいね!』が大音量で鳴り響いていたのだ。

いいね!いいね!  夜空でパーリナイッ
いいね!いいね!  輝いていこう
とりま  モッシュッシュ  少しずつなんて無理
YEAH  YEAH  超絶すぎるよ  完璧よ  おんにゃのこは
夢も  きっと  超カオスだよ

結論:BABYMETALは人をグニャグニャにする。

さて、わたしが完全に出来上がるまでには2つのハードルがあった。

ひとつはメタル音楽が宿命的に内包する男性型ナルシシズムの問題である。これについては別の機会に詳述するつもりでいる。

もうひとつは両サイドふたりからなるBLACK BABYMETALの「可愛らしすぎてこっちが恥ずかしい問題」である。これの解決に一役買ったのは『LIVE IN LONDON』のDVDだった。

彼女たちのライブ・パフォーマンスを見よ!これぞプロフェッショナルkawaiiだ!『おねだり大作戦』の買って買ってのところで手のひらを合わせてぴょんぴょん跳ねたりする!「可愛らしい」の範疇を軽々と超えてくる!そらリミッター外れるっつーの!

そんなわけでわたしは完全に出来上がった。世に言うBABYMETAL依存症である。

しばらくは1stアルバムに夢中だった。半月ほど前に2ndアルバムの魅力を発見して以来、1stと合わせて1日数回摂取している。当初は分裂症的に聞こえて拒絶していた『Tales of The Destinies』も、いまではお気に入りの1曲だ。

音源や映像作品を摂取できない状況下においてはもっぱら脳内で鳴らす。そうやって飢えをしのぐ。仏頂面の裏側で「キンキラリーン!」とか「もっともっとホラ!」などと盛んにやっているわけだ。そうせずにはいられない。気味の悪い話である。

この状態がいつまで続くかはわからない。しかしわたしはこの状態が好きだ。できるだけ長続きして欲しいと思っている。それから新しい車に何かしらキツネグッズを載せてやろうと現在画策中である。お面にしようかな。

では最後に一言。ありがとう女の子たち!今後ともよろしく!(おしまい)

(4)崩壊寸前

BABYMETALの2ndアルバムを聴いたわたしは胸焼けを起こした。

『Road of Resistance』のライブ動画にすっかり魅了され、半ば衝動的にアルバムを買ってはみたものの、全体を通して聴いた印象は「甘ったるい」の一言に集約された。

何しろkawaii要素が強すぎる。

喩えて言えば、黒や紺、灰色など地味な色の服ばかり着ていた人間が、ある日突然ピンク色の上下を着せられたようなものである。鏡の前に立った彼あるいは彼女はこう感じるだろう。違う、違う、違う。これは自分じゃない。

率直に言って残念だった。

素晴らしいメタル音楽を土台に据えているとはいえ、やはり彼女らはアイドルなのだ。

アイドル的な手法にまるで馴染みのない、免疫のないわたしには、ちょっとハードルが高すぎたのかもしれない。

面白くも糞もないテレビ番組をぼんやりと眺めるままに小一時間が過ぎた頃、わたしはCDに同梱されていたMV集のことを思い出した。せっかくだからひと通り見ておくかとプレーヤーに放り込む。

想定外の出来事が起きた。

わたしは、いったいどういうわけか、そのMV集を何時間と見続けることになる。PLAY ALLに次ぐPLAY ALLが止まらなくなってしまう。最終的には『ド・キ・ド・キ☆モーニング』ばかりを20回近くリピートした挙げ句、それでもまだ不足を感じる有様であった。

ちくしょう!この手だ!この忌々しい親指が勝手に再生ボタンを押しやがる!なんという中毒性だ!ほらまた押したー!はい押したー!リンリンリン!

翌日からMV集を見るのが日課になった。脳のどこか深い部分が求めるようだった。

聴覚のみならず視覚からも情報を流し込むことによって、アイドル的な手法に対する抵抗感は日に日に薄れていった。kawaii検知器が馬鹿になってしまったのだと思う。

1週間もするとわたしの音楽的アイデンティティとやらは崩壊寸前の惨状を呈していた。ある程度のマッチョイズムと一貫性とを堅持してきたそれは、最早こんにゃく並みにグニャグニャの代物へと姿を変えていた。アイドルという異物を取り込んだ結果、質的な変化が生じたのだろう。

わたしはその変化を、しかし好意的に受け止めた。よくわからないが聴かずにはいられない音楽なのだし、まさかアイドルに夢中になるなんて自分のことながら笑えてくる体験だったからである。

似合うかどうかはさておき、たまにはピンク色の服を着てみたって罰は当たるまい。アイデンティティなど糞食らえだ。

そんなふうに考えながら、わたしはBABYMETALの1stアルバムを手にレジへと向かった。(つづく)

(3)涙

しかし、わたしはかろうじて土俵際に踏みとどまった。

まあ落ち着け、ちゃんと聴いてみろ、よおく耳を澄ますんだ、ふとそんな声が聞こえたような気がしたからである。

仰せの通りによくよく聴いてみると、女児の奇妙な掛け声、リードヴォーカルの真っ直ぐで透き通った歌声、糞キャッチーなコーラス、これらをいったん脇に置くとするならば、楽曲を形作る何もかもが正真正銘のメタルなのだった。少々不本意ながら認めざるを得なかった。

わたしはBABYMETALとかいうアイドルユニットにもう一度だけチャンスを与えることにした。『KARATE』だけではなく、ほかのも聴いたうえで判断しようと考えたのだ。

まずは『ギミチョコ!!』のMV動画を視聴する。

何だこりゃ。アタタタズッキュンって君ら何をやらされてんだ。これは正視に堪えない。可愛らしすぎてこっちが恥ずかしい。よし!次!

つづいて『メギツネ』のMV動画。

両サイドちっせーな。小学生か。わしゃロリコンか。でもメタルと和テイストがうまく調和しててよろしい。ヴォーカルの声も変にあざといところがなくていいね。はい!次!

からの『ヘドバンギャー!!』のMV動画。

なかなかどうして嫌いじゃない。ザクザク刻むアグレッシヴなギター、昭和歌謡チックなメロディ、ヴォーカルの子のスカート落ちたあ、馬鹿々々しい演出も含めてクセになりそう。オーケー!次だ!次のやつ持ってこいや!

最後にクリックしたのは『Road of Resistance』のライブ動画だった。

生バンドを含めたチームBABYMETALのパフォーマンスは掛け値なしの一級品であった。リードヴォーカルの歌声は録音されたものよりずっと力強く伸びやかに聞こえたし、外国人らしきオーディエンスの盛り上がりにも心底驚かされた。そうこうするうちに楽曲がフィナーレに近づき、3人の女の子が小さな拳を天高く突き上げたときである。わたしの身にちょっと信じられない出来事が起きた。

わたしは自分がぽろぽろと涙をこぼしていることに気付いたのだ。

こいつはいったいとわたしは自問した。

どういう涙なんだろう?

答えは懐かしい記憶のなかにあった。しばらくのあいだうろうろと歩き回り、戸惑い、疑い、何度となく躊躇したすえ、わたしはついに認めた。この涙はおそらく、ジ・ミッシェル・ガン・エレファントの名曲『ダニー・ゴー』をはじめて聴いたときに溢れ出た涙と、本質的には同じものなのだと。あの熱すぎる涙が幾千もの夜を越えて戻ってきたのだと。

あくる日、わたしはBABYMETALの2ndアルバム『METAL RESISTANCE』を購入した。(つづく)

(2)再会

約1年の空白を経て、わたしはBABYMETALとの再会を果たした。

某掲示板のニュース記事か何かだったと記憶している。記事の最後にはYOUTUBEへのリンクが貼られていた。

前回に同じく、アイドルなんか願い下げだぜとマッチョな自分を気取ったわたしは、ところが何やら名状し難い、ある種のテイルズ・オブ・ディスティニー的な力に背中を押されるのをありありと感じた。そうして自嘲的な薄笑いを浮かべながら『KARATE』のMV動画をクリックすることになる。

やがて馬鹿にブルータルなイントロがわたしの鼓膜を揺すぶりはじめた。

おいマジか。嘘だろ。このリフめちゃくちゃカッコイイんですけど!まったくの想定外なんですけど!誰か助けて!

さて、ここで歌い出しまでの35秒間を量子論的に引き伸ばし、わたしの音楽的アイデンティティの形成過程を振り返ってみたい。

若き日のわたしにロックの洗礼を施したのはほかでもない、ジ・ミッシェル・ガン・エレファントだった。それは文字通りの信仰であり、息苦しく切ないまでの願望であった。

並行してザ・フー、ジャム、クラッシュ、ダムド、バズコックス、ドクター・フィールグッドなどの黴臭いやつを、ニルヴァーナスマッシング・パンプキンズ、グリーンデイ、フーファイターズ、ブリンク182など、大掴みに言うところのラウドロックを熱心に聴いた。

その後、ストーナーロックの馬鹿々々しさに当てられ、フー・マンチューとクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジを聴き倒したわたしは、いまになって思えばメタル界隈への橋渡し役となったヘヴィロックバンド、サウンドガーデンに脳天からのめり込む。

ふと顔を上げるとメタリカがいた。ついでにパンテラもいた。わたしはそれらがとても気に入った。

実際問題、彼らの音楽はわたしがヘヴィメタルに対して抱いていたネガティヴなイメージを払拭した。例のハイトーンヴォイス、公開オナニーまがいのギターソロ、嫌に扇情的でナルシスティックなコード進行、演奏技術のひけらかし行為などがそれに該当する。

ところがである。いや、だからこそと言うべきか、以後のわたしが傾倒したのは正統派メタルではなく、一部の純粋主義者に大ブーイングを食らったオルタナティヴ・メタルと呼ばれるジャンルだった。システム・オブ・ア・ダウンスリップノット、ディスターブド、クロウフィンガー、マッドヴェインなどの面々だ。

さて、このあたりでイントロの35秒間が都合良く終了したものとする。

初めて耳にするBABYMETAL、のっけから強烈なリフで畳み掛ける『KARATE』、その歌い出しを聴いたわたしは、思わず「何だこりゃ!」と叫んで架空のソファから比喩的に転げ落ちた。

女児の甲高い声が右から左からセイヤ!セイヤ!と打ち寄せてくるではないか。

やっべえ騙された!かっこいいイントロにまんまと釣り込まれちまった!こんなもん聴けるかよ!いくら何でも可愛らしすぎるでしょうが!(つづく)