あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

(5)出来上がる

先日、当て逃げをやられた。

白のワンボックスである。赤信号で停止したわたしの車にドスッと追突しておきながら、右折信号が青だったのをいいことに、猛烈なスピードで右折して逃げていきやがった。

わたしはすっかり取り乱してしまった。あの糞野郎のナンバープレートを漏れなく記憶することができなかった。

相手を特定できない可能性もあると警察官は言った。もし特定できたとしても、それに先んじて相手が証拠隠滅を図っていたならば自白を引き出すのは困難だろうとも言った。

わたしは思いのほか平和的な気分だった。

偶然にも新しい車に乗り換える話を進める最中だったからである。

しかし、わたしが怒りや復讐心などといった下卑た感情から自由でいられた本当の理由は、すでにわたしがBABYMETAL中毒者として完全に出来上がっていたからにほかならない。

事実、このときわたしの脳内では『いいね!』が大音量で鳴り響いていたのだ。

いいね!いいね!  夜空でパーリナイッ
いいね!いいね!  輝いていこう
とりま  モッシュッシュ  少しずつなんて無理
YEAH  YEAH  超絶すぎるよ  完璧よ  おんにゃのこは
夢も  きっと  超カオスだよ

結論:BABYMETALは人をグニャグニャにする。

さて、わたしが完全に出来上がるまでには2つのハードルがあった。

ひとつはメタル音楽が宿命的に内包する男性型ナルシシズムの問題である。これについては別の機会に詳述するつもりでいる。

もうひとつは両サイドふたりからなるBLACK BABYMETALの「可愛らしすぎてこっちが恥ずかしい問題」である。これの解決に一役買ったのは『LIVE IN LONDON』のDVDだった。

彼女たちのライブ・パフォーマンスを見よ!これぞプロフェッショナルkawaiiだ!『おねだり大作戦』の買って買ってのところで手のひらを合わせてぴょんぴょん跳ねたりする!「可愛らしい」の範疇を軽々と超えてくる!そらリミッター外れるっつーの!

そんなわけでわたしは完全に出来上がった。世に言うBABYMETAL依存症である。

しばらくは1stアルバムに夢中だった。半月ほど前に2ndアルバムの魅力を発見して以来、1stと合わせて1日数回摂取している。当初は分裂症的に聞こえて拒絶していた『Tales of The Destinies』も、いまではお気に入りの1曲だ。

音源や映像作品を摂取できない状況下においてはもっぱら脳内で鳴らす。そうやって飢えをしのぐ。仏頂面の裏側で「キンキラリーン!」とか「もっともっとホラ!」などと盛んにやっているわけだ。そうせずにはいられない。気味の悪い話である。

この状態がいつまで続くかはわからない。しかしわたしはこの状態が好きだ。できるだけ長続きして欲しいと思っている。それから新しい車に何かしらキツネグッズを載せてやろうと現在画策中である。お面にしようかな。

では最後に一言。ありがとう女の子たち!今後ともよろしく!(おしまい)