あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

ストレンジ感の塊

以前取り上げたスウェーデン出身のヘヴィメタル・バンド、アヴァターが、来年早々新しいアルバム『アヴァター・カントリー』をリリースする旨の情報を得た。先行公開されたMVを以下に紹介したい。

Avatar - A Statue Of The King - YouTube

この野郎やりやがったなというのが率直な感想になる。持ち味の支離滅裂さ、自由奔放さ、馬鹿馬鹿しさ、インチキ臭さ、珍妙さ、何もかもがパワーアップするのみならず、見るものの苦笑を誘うスベり芸にも一段と磨きがかかっているではないか。なるほど、彼らは彼らで彼らなりのメタル・レジスタンスを鋭意継続中らしい。

好きな映画に以下のような台詞があるーー「我々が過去を置き去りにしても、しかし過去は我々をどこまでも追いかけてくる」

いかにも遠い目をせざるを得ない。何しろわたしが音楽に耳を貸しはじめた時分に聴いていたのは、電気グルーヴユニコーンすかんちなどといったアーティストだった。つまり電気グルーヴの馬鹿馬鹿しさ、ユニコーンの自由奔放さ、すかんちのインチキ臭さ、これらを言うなれば音楽的原体験に持つ身だからこそ、このアヴァターという、何やらストレンジ感の塊のようなバンドに興味を掻き立てられるのではあるまいかーーいや、そう自己分析しておいてまず間違いのないところだろう。

思えばBABYMETALに傾倒していく過程においても、そうしたストレンジ感への耐性、ないしは意識されざる寛容性のようなものが働いたはずである。もしかするとわたしの潜在意識は、そこにギ・おならすいこみ隊との類似を嗅ぎ取っていたのかもしれない。

WTF Music Clip! おならすいこみ隊 - YouTube

ハハッ! 改めて観るとすげーな! この世界観! このフォーメーション! この歌と踊りの圧倒的なストレンジ感! ほとんどBABYMETALじゃないすか! 俗に言う完全に一致のやつじゃないすか! どうですかお父さん!

❇︎記事の内容に一部不適切な表現がありましたことを深くお詫び申し上げます。

クサカッコイイ

巨大キツネ祭り前のわたしは以下のように考えていた。(1)両日とも出席するのだからほとんどの楽曲が体験できるだろう。(2)アリーナなのだから女の子たちを間近に見られるはずだ。(3)したがってライブ行きたい病もひとまず小康を得るのではないか。

オランダのことわざに曰く「Roast geese don't come flying into your mouth.(ローストグースは口のなかに飛び込んでこない)」ーーハハッ! 面白い言い回し!

現実はいつだって不如意である。そうして不如意なる現実の最新のやつがSU-METALの聖誕祭である。12月2日と3日、広島グリーンアリーナにて開催、チケットは各日2万円。わたしにいったい何ができる? デ・ニーロよろしく肩をすくめて苦笑する以外に何が?

ところで最近はトリヴィアムばかり聴く。約2年間にわたって『ザ・クルセイド』、『将軍』、『イン・ウェイブス』、『ヴェンジャンス・フォールズ』と順繰りに経てきたわけだが、ここへきてすっかり首ったけになってしまった。なかでも『ヴェンジャンス・フォールズ』には相当な中毒性を認めざるを得ない。

Trivium - Strife [OFFICIAL VIDEO] - YouTube

何しろクサさとカッコよさの乙なハーモニー、言うなればクサカッコイイのヴァイブスが現時点のわたしにちょうどいい。暴力的にして几帳面な刻み、匂い立つようなツインリードのハモり、歌謡曲まがいのキャッチーなメロディーー全部だキイチ、全部がすこぶるちょうどいいぞキイチ。また逆から言えば、こうした正統派のクサカッコイイあれこれを心底楽しめるようになった自分自身の変化、あるいは馴化、ひいては鋼鉄魂の深化を実感せずにはいられない。

こうなると例の大御所バンドがおのずと視野に入ってくる。トリヴィアムしかり、少し前に『ザ・ポイズン』を聴いて好印象を持ったブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインしかり、例の大御所バンドの影響抜きには決して鳴らせない音を鳴らしているからだ。

メタル歴10年にしてようやくたどり着くらしい。とりあえずベストでも買おうかな、アイアンメイデン。

巨大キツネ祭り(SSA)9/27

アリーナCブロックの前から3列目ーーある種の割り切りが求められるポジションを得たわたしは、やはり例によって両隣の人に話しかけることにした。

右隣は少し会話しただけでそれとわかるメタラーお兄さんだった。ドリームシアターの大ファンとのことで、是非ともテイルズが観たいんですと熱い胸のうちを語っていた。左隣はファン歴5年にして赤ミサ皆勤賞というお姉さんだった。なんでも赤ミサの会場はとてもいい匂いがするんだそうで、これには思わず「今日はどうもすいません」と謝罪の言葉が口をついて出た。

そうこうするうちに例の7連打が鳴り響き、わたしは鉛色の現実に別れを告げた。セットリストは以下の通り。

1.BABYMETAL DEATH
2.ギミチョコ!
3.メギツネ
4.(神バンドソロからの)ヤバッ!
5.アカツキ -紅月-
6.GJ!
7.シンコペーション
8.META! メタ太郎
9.イジメ、ダメ、ゼッタイ
10.KARATE
11.ヘドバンギャー!!
12.Road of Resistance
13.THE ONE(英語Ver.)

前日を上回る熱狂がわたしをつらまえた。女の子たちの姿は24時間前に比べて心持ち大きく見える程度だったから、自ずと目視確認より大はしゃぎを優先する形になった。念願の「やだやだやだやだネバネバネバー!」を全力で合わしていくのは無論のこと、初めての「もっともっとほら!」、2日連続の「スキ、キライ」、その他いろいろを大変有難く頂戴した。

ライブが後半戦に突入し、『イジメ、ダメ、ゼッタイ』の紙芝居が始まったときである。右隣のメタラーお兄さんからウォール・オブ・デスへのお誘いを受けた。マジですかと答えて振り返ると、わずか4、5メートルの背後に早くも人垣が出来ていた。わたしは迷いを振り払った。ここでやらなきゃいつやるんだと自分に言い聞かせた。そうしてお兄さんのあとに続いてウォール・オブ・デスの輪に加わったのだった。

結果から言って、わたしは左膝に擦過傷を負った。最初の飛び込みでモッシュッシュしてから引き返す際、何かしら不手際をやらかしたらしい、次に踏み出した足がむなしく宙を蹴り、そのまま前のめりに倒れ込んでしまったのである。すかさず助けてくれた見知らぬおじさまに改めてお礼を申し上げたい。ぶざまに転倒したのも驚きなら、一瞬で助け起こされたのも驚きだった。何もかもがはてなと思う間の出来事で、ふと気がつくと左の膝小僧に懐かしい痛みをおぼえた次第である。

その後のわたしは「熱狂」を超えて「狂騒」の領域に足を踏み入れたように思う。ウォール・オブ・デスという通過儀礼を曲がりなりにも経た手応えからだろうか、ライブへの没入感が一段と増したのだ。

絶え間なく打ち寄せるカワイイメタルの轟音に全身全霊を捧げること、女の子たちの凜とした姿をこの目に焼きつけること、BABYMETALが紡ぎ出す壮大かつエキセントリックな物語の一部分になることーー冴えないおっさんはそれらすべてをやり遂げた。すべてをやり遂げて、愛おしさと、誇らしさと、感謝の気持ちとで胸がいっぱいになったとき、SSA公演2日目のショーはまるでうたかたの夢のように幕を閉じたのだった。

以上が48時間に及ぶ逃亡劇のあらましである。

巨大キツネ祭り(SSA)9/26

思いのほか早く到着してしまったので、どうせ待つならと物販の列に加わってTシャツを購入した。グッズにあまり興味が持てない性質だが、実際に手にしてみるとこれはこれで素敵に有難いものだ。何しろかっこいい。

座席はアリーナを挟んでステージ正面の1階スタンド席だった。例によって開演を待つ間に両隣の人に話しかける。左隣は名古屋から遠征のおじさま、右隣は2013年頃からのファンというお兄さま。おふたりとも気さくに応じてくださってありがとうございました。おかげで気兼ねなく大騒ぎすることができました。

そうこうするうちに会場の照明が落ち、わたしは味気ない日常に別れを告げた。セットリストは以下の通り。

1.BABYMETAL DEATH
2.ド・キ・ド・キ☆モーニング
3.メギツネ
4.(神バンドソロからの)ヤバッ!
5.Amore -蒼星-
6.4の歌
7.シンコペーション
8.META! メタ太郎
9.イジメ、ダメ、ゼッタイ
10.KARATE
11.ヘドバンギャー!!
12.Road of Resistance
13.THE ONE(英語Ver.)

1曲1曲が馬鹿に短く感じられる。例の楽しい時間は何とやらの法則なのだろうが、煮えたぎるような熱狂に一抹のやるせなさが混じってくる。ああ、もう終わってしまったのかよーーからの次のイントロがドーン! うおおお来たぜええええ! これを繰り返す。

東京ドーム公演(黒)で演らなかった楽曲を数多く体験できて言うことなしだった。とりわけ『KARATE』である。あの重力を自在に操るかのようなヘヴィかつグルーヴィな音の奔流に身も心も委ねる感覚は、ちょっと筆舌に尽くしがたい。首をひと振りするごとに自意識という名のリミッターが外れ、一歩また一歩と忘我の境地に分け入っていく。最終的には大変お見苦しい姿を晒していたはずだが、無論、反省も後悔もしていない。

そうして『Road of Resistance』である。ついに巡り会えた。待ち続けた甲斐があった。何しろ最初から最後まで、すべての瞬間に、すべての歌と踊りと演奏に、わたしがBABYMETALを大好きになった理由が宿っていた。「そうだ! これだ! これなんだ!」という絶対的な確信が全身を駆け巡ると同時に、女の子たちのファンとして歩んできた1年5ヶ月が6分間やそこらに集約され、肯定され、祝福されるのをありありと感じた。端的に言って、わたしはしあわせの絶頂を味わったのだった。

おまけに『シンコペーション』であるーーなどとやっていると終わらないので、このあたりにしておく。とにかく何もかもが半端なかったと証言しておきたい。さながらヘヴィでキュートでブルータルな13本立ての夢を体験するようだった。女の子たち、神バンドの皆さん、それから裏方のスタッフの皆さま、この度は楽しいショーをありがとうございました。くっそ最高でした。

90分弱のライブが幕を閉じると、左隣のおじさまとぽそぽそ話しながら外の喫煙所まで歩いた。明日再びここへ戻って来られるのだという喜びが、わたしたちの足取りを軽くしていた。そう! 夢はまだ終わらない!

いよいよ巨大キツネ祭り

約1年ぶりの生BABYMETALとなる巨大キツネ祭り(SSA公演)がいよいよ数日後に迫った。

両日のチケットが手もとにあるという幸運に加えて、東京ドーム公演(ブラックナイト)での天空席から、26日は1階スタンド席、27日はアリーナと、ここへきて一気に距離が縮まってくるのだから胸の高鳴りを禁じ得ない、もとい、やだドキドキ止まんない。

しかし何しろ相手が相手である。かわいい日本代表の3トップと言って差し支えない女の子らである。みだりに距離を詰めようものなら急性かわいい中毒を発症しかねない。

急性かわいい中毒とは、短時間に多量の「かわいい」を摂取することによって生じる中毒(オーバードーズ)である。中毒状態に陥った者は、固まる、震える、泣く、叫ぶ、記憶をなくす、性欲が減退する、言動が少々オネエっぽくなる、年甲斐もなく大はしゃぎするなど、いろいろの症状を呈する。(Wikipediaより引用)

何はともあれ、26日と27日の2日間、わたしは現実世界からの逃亡を企てる。なりふり構わぬ全力疾走でねずみ色の日常を置き去りにし、かわいいとメタルとが融合するあの場所へ行方をくらますのだ。

無神論者にして米国ヒューマニスト協会の名誉会長でもあった作家のカート・ヴォネガットは、架空の嘘っぱち宗教と世界の終わりとを描いた小説『猫のゆりかご』の冒頭で以下のように述べているーー「無害な非真実を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」

また、無類のジャズ好きとして知られたヴォネガットは生前、自身の墓石には以下のような碑文を刻んでほしいと語ったーー「彼にとって、神が存在することの証明は音楽ひとつで十分であった」

これらの至言を混ぜ合わすとき、わたしは洗面所の鏡に映る中年男の思考なり、選択なり、行動なりの妥当性を、あるいはその必要性を、苦笑まじりに認めてやらずにはいられないーーハハッ! おっさんこの野郎! いろいろ言いたいことはあるけれども、まあ、あれだ、結局のところBABYMETALとの出会いは必然だったんだろうな! さあ行ってこい! 思いっきり楽しめ!

例によって会場では隣の席の人などに話しかけるつもりである。ちゃんと空気を読むのは無論のこと、下心も後腐れもございませんので、どうかしばしお付き合いいただければ有難いです。