あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

正直嫉妬せざるを得ない

二十歳やそこらの若々しい自分でBABYMETALに出会いたかった。当時のフルーツゼリーみたいな感受性でもってBABYMETALを体験できたなら、それはそれは愉快だろうと思うのだ。

しかし何しろ手立てがない。おっさんの心と身体とをいっぺんに若返らせるなど最先端のテクノロジーをもってしても不可能である。そこでわたしは例のタイムマシン(ミント味)に乗って学生時代の自分を訪ねることにした。あの野郎にBABYMETALを体験さして何がしかの感想を引き出してやろうという魂胆なのだった。

薄曇りの午後だった。若者たちの訝しげな視線を独り占めしながら赤煉瓦の上を歩いていくと、学食前のベンチでうつ伏せになって眠りこけている男が目に入った。ぼさぼさの金髪、薄汚い古着のジャージ、裾がほつれたリーバイスを腰で履き、斜めにすり減ったナイキの底をこちらに向けている。一目見てあの野郎とわかった。

おいと声をかける。わずかな反応がある。ややあって野郎はベンチに肘をついてのろくさと起き上がり、大きなあくびに何度か邪魔された末にようやくのことで煙草に火をつけた。そうして煙草をくわえたまま、夢の続きでも見るようにぼんやりと前方を眺めている。

その様子を見たわたしは前置きの一切を端折ることを思いついた。それが何であれ音楽に関しては一定の反応を示すだろう確信も背中を押した。わたしは懐からスマホを取り出すと、いまだ半分夢のなかにいる野郎の鼻先にBABYMETALのライブ動画を突きつけたのだった。

野郎は終始無言、無表情のうちに人生初のBABYMETALを体験した。それからまるで猫のくわえてきた何かを見るような苦笑いを浮かべて言った。「まあ、あんたが何者なのかはこの際どうでもいいよ。ただこれは糞だな。メタル風のアイドルなんてどこの誰が考えたか知らないけどさ、はっきり言って超ダサいから。マジありえないから。ハハッ、何だよあれ、お遊戯会かっつーの」

これには思わず手が出た。野郎も負けじとやり返してきた。その後の展開はご想像の通りである。わたしは自らの誇りと女の子たちの名誉のために闘い、そうしてーー

以上の苦々しい経験を踏まえてわたしはこう言いたい。10代や20代のBABYMETALファンの皆さま、あなたたちは偉い。末頼もしい。正直嫉妬するくらい見る目がある。若い頃のわたしとは大違いだ。