あんたのどれいのままでいい

とあるBABYMETAL中毒者の手記

今年の漢字は「狐」

わたしが所有するBABYMETALのアルバムに異変が生じている。

台風16号が関東地方に大雨を降らせたあの夜からというもの、ライブ盤に勝るとも劣らない生々しい音を鳴らしてよこすようになったのだ。

記憶である。いまだ胸のうちにくすぶる東京ドーム公演の記憶がCDの音に特殊なエフェクトを施し、一種の知覚異常を引き起こしていると見てまず間違いない。

この現象に打ってつけの比喩があるにはある。しかし露骨な下ネタになってしまうので誠に遺憾ながら自粛させていただく。何にしろ架空のライブ感が上乗せされて聞こえるのだから有難い話だし、おかげで賞味期限がずいぶん延びたように感じられる。

キオク、きおく、記憶と言えば、最近ふと大事なことを思い出した。

わたしはあの頃のどこかで少々無理をした。自分をひん曲げてでもBABYMETALのファンになってしまおうと腹をくくったのである。

何しろ若い女の子たちが自分の好きなメタル音楽に一生懸命取り組んでいるのが嬉しかった。ステージの上下を問わず加齢臭の充満するメタル界隈に甘酸っぱい香りを持ち込んでいるのが有難かった。糞の山という形容がまだ手ぬるいと感じられるほど堕落しきった日本の大衆音楽に一石を投じているのが痛快だった。

もし電車で偶然隣り合わせた女子中高生がカート・ヴォネガットシオドア・スタージョン、あるいは夏目漱石夢野久作なんかを熱心に読んでいたら、わたしは嬉しくて仕方がないだろうと思う。例の不審者情報を配信される危険を冒してまで声をかけたくなるかもしれない。

「20日午後、小田急線の車内にて中年男が女子生徒に声をかける事案が発生。男は女子生徒が読んでいた文庫本を指差して『ありがとう』と言ったのち、満足げな表情を浮かべて降車した。なお、男は奇妙なヒゲを生やしており(以下略)」

そういうものだ。いや、そういうものだ。

唯一にして最大の障壁はBABYMETALのアイドル的側面、すなわち獰猛なまでの可愛らしさにあった。わたしは以下のようなマントラを唱えて自らを奮い立たせたーー「慣れだよ慣れ。慣れちまえばこっちのもんだ」

その結果がご覧の通りの有様である。今年の漢字は「狐」をおいてほかにない。