あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

(3)涙

しかし、わたしはかろうじて土俵際に踏みとどまった。

まあ落ち着け、ちゃんと聴いてみろ、よおく耳を澄ますんだ、ふとそんな声が聞こえたような気がしたからである。

仰せの通りによくよく聴いてみると、女児の奇妙な掛け声、リードヴォーカルの真っ直ぐで透き通った歌声、糞キャッチーなコーラス、これらをいったん脇に置くとするならば、楽曲を形作る何もかもが正真正銘のメタルなのだった。少々不本意ながら認めざるを得なかった。

わたしはBABYMETALとかいうアイドルユニットにもう一度だけチャンスを与えることにした。『KARATE』だけではなく、ほかのも聴いたうえで判断しようと考えたのだ。

まずは『ギミチョコ!!』のMV動画を視聴する。

何だこりゃ。アタタタズッキュンって君ら何をやらされてんだ。これは正視に堪えない。可愛らしすぎてこっちが恥ずかしい。よし!次!

つづいて『メギツネ』のMV動画。

両サイドちっせーな。小学生か。わしゃロリコンか。でもメタルと和テイストがうまく調和しててよろしい。ヴォーカルの声も変にあざといところがなくていいね。はい!次!

からの『ヘドバンギャー!!』のMV動画。

なかなかどうして嫌いじゃない。ザクザク刻むアグレッシヴなギター、昭和歌謡チックなメロディ、ヴォーカルの子のスカート落ちたあ、馬鹿々々しい演出も含めてクセになりそう。オーケー!次だ!次のやつ持ってこいや!

最後にクリックしたのは『Road of Resistance』のライブ動画だった。

生バンドを含めたチームBABYMETALのパフォーマンスは掛け値なしの一級品であった。リードヴォーカルの歌声は録音されたものよりずっと力強く伸びやかに聞こえたし、外国人らしきオーディエンスの盛り上がりにも心底驚かされた。そうこうするうちに楽曲がフィナーレに近づき、3人の女の子が小さな拳を天高く突き上げたときである。わたしの身にちょっと信じられない出来事が起きた。

わたしは自分がぽろぽろと涙をこぼしていることに気付いたのだ。

こいつはいったいとわたしは自問した。

どういう涙なんだろう?

答えは懐かしい記憶のなかにあった。しばらくのあいだうろうろと歩き回り、戸惑い、疑い、何度となく躊躇したすえ、わたしはついに認めた。この涙はおそらく、ジ・ミッシェル・ガン・エレファントの名曲『ダニー・ゴー』をはじめて聴いたときに溢れ出た涙と、本質的には同じものなのだと。あの熱すぎる涙が幾千もの夜を越えて戻ってきたのだと。

あくる日、わたしはBABYMETALの2ndアルバム『METAL RESISTANCE』を購入した。(つづく)