あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

(8)リハビリの出発点


かれこれ1年近くBABYMETALを聴かない。新曲のいくつかは味が出てくる程度耳に入れたが、トリオ時分の楽曲や映像に接するのは依然困難だ。我ながらとんでもないナイーブおじさんだなと自嘲する日々である。

けれども、わたしはBABYMETALを好きでいたい。かつての熱狂を取り戻し、またライブへ出掛けて行って大はしゃぎしたい。このシンコペーション的心理状態を解消するには何らかのリハビリが必要だ──とこう考えていたところへ、某音楽誌がSU-METALとMOAMETALのインタビュー記事を掲載する旨の情報を得た。

以前の投稿で音楽と人間とがどうのこうのと不満がましいことを書いた手前、これを黙過するのは卑怯である。無責任である。とんだファック野郎である。そこでわたしは発売日に郵便受けへ突っ込まれてあったPMCとかいう雑誌を貪るように読んだ。

スリップノットのギタリスト、ミック・トムソン(長髪巨漢のほう)は、Wikipediaが報告するところによると以下のような人物である。(1)大の猫好き。(2)インタビューで休日の過ごし方を問われ「1日中マスをかいてるに決まってるだろうが」と答える。(3)初来日の際、右腕に「嫌悪」と漢字のタトゥーを入れるも、のちに母親にその意味を問われ「美しい虹」と答える。

なんというナイスガイだろうか。何しろ音楽を聴くうちに人間のほうにも興味を抱き、人間を知ることで音楽がますます好きになる──こうした現象をわたしは何度となく経験してきた。自分のなかで音楽と人間とが分かち難く一体化するプロセスを度々目撃してきた。

そういった意味で、今回のインタビュー記事はリハビリの出発点になったように思う。内容自体は無論のこと、SU-METALとMOAMETALそれぞれのものの見方、感じ方、考え方、さらには言葉選び、語り口、呼吸、これらの一端が垣間見えたことは、わたしにとって大変有難かった。次第々々に濃い霧のなかへ引っ込んでいくかに思えたBABYMETALが、いま一度、ある程度の実像をともなって眼前に立ち現れるように感じられた。

これを機にリハビリを開始しようと思う。サードアルバムの開封に至っては禁断症状で手がぶるぶる震えるくらいなコンディションにまで自分を整えていきたいし、それができると強く信じるところである。

涙のDownload Japan 2019(後編)


好きなバンドが出るんだろう期待が空振りに終わったダウンロードで、しかしわたしは大粒の涙を流すことになる。この言うなればポロリ事件が発生した経緯について、以下に詳しく書き記す。

スレイヤーの出番に備えて喫煙タイムを取ったのが仇となり、わたしはゴリゴリの地蔵ゾーンに嵌まり込んだ。2曲目が終わったところでこれじゃあんまりだと思い立ち、群衆をかき分けて前へ前へと進んだ。そうしてスレイヤー初心者のおっさんはサークルピットを抜けた先の熱狂者ゾーンに自分の居場所を見つけたのだった。

この3ヶ月余り、わたしはアルバム7枚を入手して予習に励んだ──否、予習などというのは適当な表現ではない。何しろ割合に早い段階で、そのモチベーションはある種の純粋さを獲得したからだ。随分遅まきながらスレイヤーの魅力にあてられ、この界隈で言うところの「もっともっとほら!」状態に陥ったからである。

セットリストの楽曲はほとんど頭に入っていた。周囲の熱狂的ファンによるやっさもっさの大騒ぎにも助けられた。わたしは心と身体とを音楽に向かって投げ出し、足腰の痛みやら、分別臭い自意識やら、灰色の日常やら、そういったものすべてから自分を解き放った。ありていに言ってそれは鳴りしきる麻薬であり、夢のような幻覚のような時間はあっという間に過ぎた。

ふと見ると、男はステージの中央にひとり佇んでいた。スクリーンが映し出すその表情からは、達成感と、名残惜しさと、わたしたちファンを包み込む何やら大きな愛情のようなものが見て取れた。スレイヤー最後の日本公演がいままさに幕を閉じようとしているのだった。

わたしは、ようやく背中が見えて、ようやく追いついたはずのスレイヤーが、トム・アラヤが、その日を限りに遠くへ行ってしまうという現実に年甲斐もなく胸を締めつけられ、居ても立っても居られなくなり、ついには力いっぱいの大声で彼の名前を呼んだ。

そのあたりのどこかでポロリ事件が発生したものと記憶するところである。いや、トム・アラヤが日本語で惜別の言葉を述べる最中だったかもしれないし、彼が鳴り止まぬスレイヤーコールに送られてステージを去る場面だったかもしれない──いずれにせよ、わたしはとっさに眼鏡を外し、溢れ出る大粒の涙を拭った。胸のうちで幾度も「ありがとう」とつぶやきながら。

さて、ジューダス・プリーストを観るわたしの心持は、かつて伊勢神宮にお参りした際のそれにどことなく似ていた。果たしてロブ・ハルフォードは神々しく、そうして何だかちょっと可愛らしかった。

このような具合でわたしのダウンロード・ジャパン2019は成し遂げられた。来年も開催されるのであれば是非参加したい。トリヴィアム! プロテスト・ザ・ヒーロー! キルスウィッチ・エンゲイジ! ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン! アヴァター! もちろんメタリカ、メイデン、スリップノットシステム・オブ・ア・ダウンも観たい! どうかお願いします運営の人!

涙のDownload Japan 2019(前編)


好きなバンドのひとつやふたつは出るんだろう当て込みが外れたので、スレイヤーを山盛りとジューダス・プリーストを少々予習して祭りにのぞんだ。あとは出たとこ勝負で十分楽しめるんだろう腹なのだった。

結論から言ってフェスに住みたい。メタルの轟音に全身を浸しながら暮らしたい。某映画によるとCIAはメタルを拷問に使うらしいが、このわたしにそんなものは一切通用しない。かえって健康で幸福な生活を送ること請け合いである。何にせよ早起きして幕張くんだりまで出張り、すべてのバンドを結構しっかり観た。よって以下に感想めいたものを書き記す。

ライク・ア・ストーム:トップバッターならではの当たって砕けろ精神に浅からぬ感銘を受けた。あの重低音を響かしてよこすミステリアスな楽器が気になる。

アマランス:何となくスクールウォーズの主題歌のような趣きが感じられた。乗りやすいビートとキャッチーなメロディにキラキラとした電子音をからめたサウンドは、こうしたフェスでこそ際立つようだ。

マン・ウィズ・ザ・ミッション:タイトルは知らないがレイジ・アゲインスト・ザ・マシンを彷彿とさすファンキーな楽曲にまんまとヘドバンせしめられた。カメラが頑としてボーカルの顔を映さないのが面白い。

ヘイルストーム:ギターボーカルのお姉さまが目を見張るほど格好良かった。タモさん風に言えば叱られたい。何かひどくつまらない悪事を働いたかどで呼び出され、くどくどと小言を言われたい。冗談はさておき、メイデンっぽいギターのハモりがある楽曲が印象に残った。

アーチ・エネミー:このあたりから急激に人が増えた。内容的にも、凶暴なデスボイス、いかついリフ、ツインリードのハーモニーが満載で、おや来たな、いよいよメタルが始まったのだなという感慨をおぼえた。

アンスラックス:開演直前だった──会場内SEでパンテラが流れ出した瞬間、そう遠くはない場所でモッシュピットが発生した。思いのほか前のほうにいたようで、そのまま熱狂的なファンに囲まれて大はしゃぎするうちに1時間が過ぎた。思うにスラッシュメタルは身体にいい。もしかするとややこしいミュートバッキングに何らかの健康効果があるのかもしれない。

ゴースト:ボーカルが「俺様のキュートなお尻が好きかい?」と問うていた。オーディエンスは「イエーイ!」と答えていた。微笑ましい光景であった。

サム41:うちのメタルガイにも何か弾いてもらうよと言うので、もしや例の『マスター・オブ・パペッツ』が来るかと胸を躍らしたが『パラノイド』だった。とはいえポップパンクは問答無用で楽しい。懐かしい。甘酸っぱい。近くの外国人がぴょんぴょん飛び跳ねながら盛んにエアギターをやっていた。


【後編の予告】
事前に「涙の」などと銘打っておきながら、まさか本当に泣かされるとは思いもしませんでした。それもこれもジョン・トラボルタ似のあの人のせいなのです。

あなたとわたしのトリヴィアム

この2ヶ月余り、わたしはクリスマスを心待ちにする5歳児さながらウキウキ気分で過ごした。というのも、わたしのキイチ率いるわたしのトリヴィアムがグラミー賞のベスト・メタル・パフォーマンス部門にノミネートされていたからである。

結果は惜しくも残念賞に終わったが、2ヶ月にわたって彼らのSNSを見張っていたわたしはトリヴィアムがよりいっそう好きになった。なんと気持ちのいい連中だろうと感心したし、ライブへ出掛けて行って4人の名前を力いっぱい叫びたい衝動に駆られた。

そこで今回はトリヴィアムの楽曲をいくつか紹介し、世に言う布教活動みたいなことをやってみようと思う。

Trivium - Pull Harder On The Strings Of Your Martyr [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
全世界でセンセーションを巻き起こした2作目『アセンダンシー』は、言うなれば「若さ」という棍棒でしこたまぶん殴られるかのようなアルバムである。若さゆえの大胆不敵さと感傷主義とが見事に融合した甘辛い楽曲の数々を、何が何でも体験してほしい。

Trivium - Down From The Sky [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
オールドスクールな内容の『ザ・クルセイド』に続いてリリースされた4作目、その名も『将軍』は、どこを切り取ってもトリヴィアム節と呼ぶほかない唯一無二の個性が鳴りしきる、早い話が名刺代わりの傑作である。やや遅効性なので最低100回は聴くように。

Trivium - Brave This Storm LIVE at Wacken 2013 - YouTube
5作目の『イン・ウェイヴス』がメタルコアへの回帰だとすれば、『ヴェンジャンス・フォールズ』は正統派モダンメタルへの挑戦と捉えることができるだろう。メロディの端々にディスターブドっぽいニュアンスが見え隠れするのはきっと気のせいだ。

Trivium - The Heart From Your Hate [OFFICIAL VIDEO] - YouTube
バンドは生き物である。したがって、太鼓担当が入れ替わっただけで新たな化学反応が生じ、クソ半端ねえクソ名盤が出来上がるなんてことも、当然ながら起こり得るわけだ。最新作『ザ・シン・アンド・ザ・センテンス』は概略そんなアルバムである。もちろん『サイレンス・イン・ザ・スノー』も決して悪い出来ではないが。

さあ、これであなたもすっかりトリヴィアムファンである。来るべき来日公演のサークルピットでお会いしましょう。

【おまけ】
Trivium - "Beyond Oblivion" (Alex Bent Drum Playthrough) - YouTube
新しいドラマー、アレックス・ベントのプレイスルー動画です。この細川俊之似の若者が「トリヴィアムを救った」とまで激賞される理由を、是非その目と耳とでお確かめください。

(7)鼻で笑っていただきたい

前回の投稿で10代20代の若者を散々アジっておいて無責任もいいところだが、しばらくBABYMETALから離れることにした。

第1に、YUIMETAL脱退による欠落感が依然として埋まらず、今後埋まる見通しも立たないからである。3人のBABYMETALから数々の感動と興奮とをもらってきた身として、そう簡単に割り切ることができない。

第2に、この1年間あれこれ心配したり、落胆したり、憶測したりするうちに、わたしがBABYMETALに抱いていたファンタジーの大部分がへたってしまったからである。いったんファンタジーがへたると楽曲までもがどこか空々しく聞こえるのだから不思議だ。

第3に、プロテスト・ザ・ヒーローの来日公演中止に伴うメンバーのコメント、某フェスのステージに立つトリヴィアムを最前列で撮影したファンカム、先日2回目を観た映画『ボヘミアン・ラプソディ』などを通じて、やはりわたしは音楽と人間とが分かち難く一体化しているようなのが好きなんだなと再認識したからである。

ご覧の通りの体たらくと言うほかない。過去に囚われるのみならず、手前で勝手にこさえた幻想が消え失せただの何だのと嘆くばかりか、BABYMETALに望むべくもないものを望んでいる。鼻で笑っていただきたい。何なら口汚く罵ってもらって構わない──「ごちゃごちゃうるせえな! さっさと失せやがれ、ケツの穴みたいな顔しやがってこの野郎!」とか何とか、その他いろいろ。

畢竟ずるに近づきすぎたのだと思う。だからしばらく距離を置くことにした。そうしていつの日か、心の底からBABYMETAL大好きと言える自分を取り戻すつもりだ。何故と言って、そっちのほうが断然楽しいからである。


【お知らせ】
余程の動きがない限り、次回の更新は「涙のダウンロード・フェスティバル(前編)」になります。