あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

30000字のラブレター

打ち明けて言うが、わたしは二十歳やそこらの数年間、俗に言うところの「追っかけ」をやっていた。

相手は60代後半の老紳士だった。数々の言論人を世に送り出した知る人ぞ知る権威なのにも関わらず、軽妙洒脱にして気取らない話しぶり、ゆるキャラみたいな可愛らしい風貌、そうして年老いてなお革新的な学説を世に問う姿勢などなどが、わたしに加えてふたりの友人の心をつらまえ、追っかけ行為へと駆り立てたのだ。

老紳士の話はしばしば脇道へ逸れた。わたしたちは待ってましたとばかりに目配せを交わし、一言たりとも聞き逃さぬ覚悟で耳をそばだてたものだった。なかでも強く印象に残っているのが京都で過ごしたという学生時代の思い出話である。

何でも当時想いを寄せていた女学生に宛てて30000字のラブレターを書いたんだそうだ。さ、さ、さ、さんまんじ! なんという気持ちのこもった嫌がらせ! ハハッ! 師匠! 手作りセーターの比じゃないですな!

驚くのはまだ早い。勘の鋭い方ならすでにお気づきかもしれないが、老紳士の思い出話には、実はその女学生というのが後のカミさんなのだ、というロマンチックなオチがついてくる。つまり奥様は、400字詰原稿用紙75枚分にも及ぶラブレターをきちんと読み通し、涙するほど感動したんだか、時間を返せこの野郎と憤ったんだか知らないが、とにかく首を縦に振ったわけだ。

おお、なんという、変人にやさしい時代。

しかし考えてもみると、当ブログにしたってラブレター的な側面があると言えなくはないだろう。何しろここへ書き散らかしたあれこれは、結局のところ「好き」の2文字か、または「頑張れ」の3文字か、もしくは「ありがとう」の5文字かにつづめることができる。それでいて30000字どころの騒ぎではない、現時点でおそらく50000字を軽く超えているはずなのである。

なるほど。わたしたちは別の意味で、変人にやさしい時代を生きているらしい。せっかくなんだからそのやさしさに甘えることにして、来年も引き続きBABYMETALへのラブレター的な文章をしたためていくつもりだ。

それでは最後に。ウィーアー! ベビーメタール!

BABYMETALの本質

わたしたちがBABYMETALに観るものは、何も目に見えるものばかりではない。3人それぞれの人間性のようなものが相補的に作用しながら、歌と踊りとを通じて素晴らしく調和する有様を観るのである。

SU-METALはステージの申し子と呼ぶに相応しい肝っ魂の持ち主である。決して小器用なタイプではないが、しかし彼女は自分がもっとも輝ける場所を知っていて、そこへ心と身体のすべてを投げ打つことができる。その潔さ、誠実さ、思い切りのよさに人柄がにじみ出る。

YUIMETALは一言で言って意志の人である。はにかみ屋の表向きとは裏腹に、彼女の内面には1本のぶってえ筋金が入っている。彼女の踊りが呈する美しさ、緻密さ、切れ味の鋭さは、自分自身に対して一切の妥協をも許さない強い意志の表れと見てまず間違いないだろう。

MOAMETALは元気と笑顔と心配りとで周囲を巻き込む達人である。自らを潤滑油に喩えることが許される数少ない人間のひとりと言い換えてもいい。そうした徳性を核にして形作られてきた彼女のパフォーマンスは、オーディエンスひとりひとりを比喩的にハグするのだ。

こうした三者三様の人間性のようなものが奏でるハーモニーこそが、BABYMETALの本質なのではないか。

メタルを超えて、アイドルを超えて、目に見えるものすべてを超えて、世界中であの3人にしか生み出せないトライアド(三和音)のようなものこそが、わたしたちの心を揺すぶって止まないのではあるまいか。

同じことが例えばスリーピース・バンドの代名詞、グリーンデイにも言える。若い頃のわたしが夢中になっていたのは彼らの音楽のみならず、やんちゃ坊主のビリー、沈着冷静なマイク、茶目っ気あふれるトレの3人による絶妙な協調関係ではなかったか。

あの日の午後、YUIMETALが体調不良によりライブをお休みする旨のメールを読んだわたしは、マージーかーよーと細長くつぶやいて、その場にへたり込んだ。額面通りに受け取って回復を待とうという気持ちと、まさか最悪の事態に備えねばならないのかという気持ちとで、心が真っ二つに裂けてしまった。

あれから半月が経過した。冷静になって周辺情報をすり合わせてもみると、YUIMETALは大丈夫だろうと思う。したがってBABYMETALも大丈夫だろう。3人の人間性が奏でるトライアドは今後も鳴り続けるはずだ。

なんという微笑ましさ

わたしのBABYMETALが「21世紀で最も重要なメタルバンド50」に選出されたというので、早速ラウドワイヤーのウェッブサイトを訪ねた。残り49組の顔ぶれをうんぬんすると同時に、未知のバンドがあれば片っ端からYOUTUBEへ問い合わせてやる腹なのだった。

その結果、デス・クロックなるバンドが耳に留まった。何でも『メタロカリプス』というアニメシリーズに出てくる架空のバンドなんだそうだ。エピソードごとに新曲を披露する馬鹿に太っ腹な方式で、すでに4枚のアルバムをリリースしているらしい。

Dethklok - Face Fisted [MV] - YouTube
(PG12相当の一風変わった内容です。よい子のみんなはパパやママと一緒に観てね!)

第1にサウンド・プロダクション(音作り)がわたし好みである。第2に楽曲を構成するリフがどれもこれも気持ちいい。第3にまるで排水口にイモを詰まらせたかのような、あるいは段ボール箱の底をゴソゴソゴソゴソ手探りするかのような歌声が不思議と癖になってくる。

めずらしく歌詞が気になったので調べてみると、コーラスの部分はおおむね以下のような内容だったーー「お前はクソ弱い/俺はクッソ強いぞ/その通り/お前はクソ弱い/俺はクッソ強いぞ/その通り/お前はブサイクだ/お前はうすのろだ/お前の母ちゃん百貫デブ/お前の母ちゃん裏切り者をしゃ◯った/お前は間違いだ/お前はケーキとファ◯クする/(以下、同様の子供じみた悪態が続く)」

おお、なんという、なんという微笑ましさ。

そうこうするうちにトリヴィアムの新作『ザ・シン・アンド・ザ・センテンス』と、デス・クロックのファースト『デスアルバム』の2枚が我が家に届いた。

どちらも素晴らしい出来なのだが、このところ劇的に耳に馴染んできたのがトリヴィアムの新作である。10回以上聴いてようやく各楽曲への理解が一段深いレベルに到達したらしく、当初とは少々異なる色、味、匂い、手触り、奥行きなどがそこはかとなく感じられてくるのだから楽しくて仕方ない。打ち明けて言えば、彼ら4人に会いに行きたい気持ちは募るばかりである。

いまのうちにいろいろ聴いておく。何しろBABYMETALの新しいアルバムが出たら、控えめに見積もって半年はほかの音楽が耳に入らなくなるだろうからだ。

ストレンジ感の塊

以前取り上げたスウェーデン出身のヘヴィメタル・バンド、アヴァターが、来年早々新しいアルバム『アヴァター・カントリー』をリリースする旨の情報を得た。先行公開されたMVを以下に紹介したい。

Avatar - A Statue Of The King - YouTube

この野郎やりやがったなというのが率直な感想になる。持ち味の支離滅裂さ、自由奔放さ、馬鹿馬鹿しさ、インチキ臭さ、珍妙さ、何もかもがパワーアップするのみならず、見るものの苦笑を誘うスベり芸にも一段と磨きがかかっているではないか。なるほど、彼らは彼らで彼らなりのメタル・レジスタンスを鋭意継続中らしい。

好きな映画に以下のような台詞があるーー「我々が過去を置き去りにしても、しかし過去は我々をどこまでも追いかけてくる」

いかにも遠い目をせざるを得ない。何しろわたしが音楽に耳を貸しはじめた時分に聴いていたのは、電気グルーヴユニコーンすかんちなどといったアーティストだった。つまり電気グルーヴの馬鹿馬鹿しさ、ユニコーンの自由奔放さ、すかんちのインチキ臭さ、これらを言うなれば音楽的原体験に持つ身だからこそ、このアヴァターという、何やらストレンジ感の塊のようなバンドに興味を掻き立てられるのではあるまいかーーいや、そう自己分析しておいてまず間違いのないところだろう。

思えばBABYMETALに傾倒していく過程においても、そうしたストレンジ感への耐性、ないしは意識されざる寛容性のようなものが働いたはずである。もしかするとわたしの潜在意識は、そこにギ・おならすいこみ隊との類似を嗅ぎ取っていたのかもしれない。

WTF Music Clip! おならすいこみ隊 - YouTube

ハハッ! 改めて観るとすげーな! この世界観! このフォーメーション! この歌と踊りの圧倒的なストレンジ感! ほとんどBABYMETALじゃないすか! 俗に言う完全に一致のやつじゃないすか! どうですかお父さん!

❇︎記事の内容に一部不適切な表現がありましたことを深くお詫び申し上げます。

クサカッコイイ

巨大キツネ祭り前のわたしは以下のように考えていた。(1)両日とも出席するのだからほとんどの楽曲が体験できるだろう。(2)アリーナなのだから女の子たちを間近に見られるはずだ。(3)したがってライブ行きたい病もひとまず小康を得るのではないか。

オランダのことわざに曰く「Roast geese don't come flying into your mouth.(ローストグースは口のなかに飛び込んでこない)」ーーハハッ! 面白い言い回し!

現実はいつだって不如意である。そうして不如意なる現実の最新のやつがSU-METALの聖誕祭である。12月2日と3日、広島グリーンアリーナにて開催、チケットは各日2万円。わたしにいったい何ができる? デ・ニーロよろしく肩をすくめて苦笑する以外に何が?

ところで最近はトリヴィアムばかり聴く。約2年間にわたって『ザ・クルセイド』、『将軍』、『イン・ウェイブス』、『ヴェンジャンス・フォールズ』と順繰りに経てきたわけだが、ここへきてすっかり首ったけになってしまった。なかでも『ヴェンジャンス・フォールズ』には相当な中毒性を認めざるを得ない。

Trivium - Strife [OFFICIAL VIDEO] - YouTube

何しろクサさとカッコよさの乙なハーモニー、言うなればクサカッコイイのヴァイブスが現時点のわたしにちょうどいい。暴力的にして几帳面な刻み、匂い立つようなツインリードのハモり、歌謡曲まがいのキャッチーなメロディーー全部だキイチ、全部がすこぶるちょうどいいぞキイチ。また逆から言えば、こうした正統派のクサカッコイイあれこれを心底楽しめるようになった自分自身の変化、あるいは馴化、ひいては鋼鉄魂の深化を実感せずにはいられない。

こうなると例の大御所バンドがおのずと視野に入ってくる。トリヴィアムしかり、少し前に『ザ・ポイズン』を聴いて好印象を持ったブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインしかり、例の大御所バンドの影響抜きには決して鳴らせない音を鳴らしているからだ。

メタル歴10年にしてようやくたどり着くらしい。とりあえずベストでも買おうかな、アイアンメイデン。