あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

『LIVE AT WEMBLEY』レビュー

当初は購入を見送るつもりだった。東京ドームの2枚組まで待とうと考えていた。何でもかんでも出たら買うなんて姿勢は主義に反するからだ。

ところが1週間ほど前である。はたと我に返ったわたしは、自分が何やら嫌に黒光りする薄っぺらな小箱をテレビへ接続しているのに気付いた。正面中央のロゴから察するところブルーレイが再生できるやつらしい。「何じゃこりゃ危なーい!」と内心叫んではみたが、もちろん手遅れだった。

そうして24日の午後8時半過ぎ、「まさか」と「やはり」との狭間で揺れ動くわたしのもとへ、例の薄ぺらい段ボール箱が届いてしまう。ありったけの勇気を呈して開梱すると、果たして中身はBABYMETAL『LIVE AT WEMBLEY』のBDなのだった。「ほーらーブルーレイ来たー」とわたしはつぶやいた。

以後かれこれ10回近く鑑賞している。そのたびに時間泥棒があらわれ、わたしの貴重な時間をまんまと盗んでいく。

2ndアルバムの楽曲がどれも半端ない。パフォーマンスの質が高すぎて笑い泣きするほどだ。『ヤバッ!』と『GJ!』は何度観ても飽きない可愛らしさを、『META! メタ太郎』はスタジオ音源に比すべくもない圧倒的なダイナミズムを提示する。会場がピースフルな一体感に包まれる『THE ONE』からの『Road of Resistance』がライブのハイライトなのは間違いないにしろ、わたしとしては『Amore -蒼星-』をベストトラックに推したい。

何しろSU-METALの歌声と神バンドの演奏とが極めて高い次元で融合している。双方が心と身体のすべてを余すところなく差し出し、ひとつの卓越したパフォーマンスを作り上げている。おそらくは楽曲そのものの求めるレベルが一際高いからこそ、彼らの音楽に対する献身性がより強く感じられるのではないか。

あんまり長くても仕方ないので、以下にその他いろいろを書き散らかす。

・もちろん1stアルバムの楽曲も半端ない。
・音の仕上がりが「ヒャッハー! これぞメタルのライブだぜ!」といった具合で最高だ。
・神バンドが上手すぎて涙が出る。
・女の子たちがかわいすぎて魂を抜かれる。
・やたらと脚に目が行くなと思ったら、どうやらスカートの丈が少々短い衣装らしい。
・YUIMETALの挨拶の最初のところが聞き取れない。
・個人的に言って『LIVE IN LONDON』を軽々と超えてきた。なんという傑作!

評価 ★★★★★

ブリッジ☆ミュート

歪(ひず)んだギターの音がたまらなく好きだ。とりわけブリッジミュートのバイオレンスな鳴りにぞっこん首ったけである。

かつては避けて通っていたメタルの界隈に移り住んだのも、より変態的なブリッジミュートを欲しがった結果と見てまず間違いない。言い換えれば、それまで服用していたお薬が徐々に効かなくなってきたというわけだ。

何の話だこのブタ野郎とお怒りの方のために説明しておくと、ブリッジミュートとはエレキギターの演奏技術のひとつである。普通にジャーンと弾くのとは異なり、手のひらの側面で弦の端っこ(ブリッジ)を圧迫(ミュート)しながら弾く。そうすることで生肉の塊をどしどし叩っ斬るような、ヘヴィで、ブルータルで、なおかつタイトな音が出るという寸法なのだ。

BABYMETALの楽曲で言えば『メギツネ』の冒頭「デデデデッデッデデン」がブリッジミュートである。いったんそうとわかってしまえば何しろメタル音楽の基本なのだから、すべての楽曲でザクザクドバドバと変幻自在に鳴っているのが聴き取れるだろう。

わたしはそんなブリッジミュートの鳴りを偏執的に好む者である。

これをいかに変態的に並べてくるか、差し込んでくるか、混ぜ合わせてくるかが勝負の分かれ目になる。もともとメロスピみたいにすらすら流れていくようなやつよりも、長短いろいろの休符を散りばめて躍動的なニュアンスをつけた、すなわちグルーヴ感のあるやつのほうが断然好みである。


これは卓越している。見た目がゆるキャラっぽいから子どもや女子中高生に人気が出そうだ。惜しむべきはこの人たちがキャリアを重ねるにつれ退屈なニューメタルバンドになり下がってしまった点である。何故この知的で可愛らしい路線を続けなかったのか。


これは抜きん出ている。映像がご丁寧にも明示する通り、メタル音楽がダンスフロアに押し入ってくる旨のさわやかな楽曲である。「何じゃこりゃ!」と「かっこいい!」とを同時に味わえるSOADがわたしは大好きだ。どことなくBABYMETALに通じるものがあると思う。


これは際立っている。コーラス前のザックザクしたブリッジミュートが猛然と上げてくる。メタル音楽とラウドロックの境界線をあえてぼやかした上でキャッチーな歌モノまで放り込んでくるスリップノットもまた、BABYMETALとの類似性を感じさせるバンドである。

初めてYouTubeのリンクを貼ってみたのでドキドキが止まらない。いずれにしろわたしはもっと欲しい。もっともっとほら変態的で躍動感のあるブリッジミュートをふんだんに混ぜ込み散らかしたメタル音楽が聴きたい。

日々探しているのだがなかなか見つからない。何しろストライクゾーンが狭く出来ている。

BABYMETALは何故泣けるのか

2014年7月5日の午後8時過ぎ、わたしはどこで何をしていたのだろう。おおかたJリーグ中継でも見ながら食後のデザートを頬張っていたに違いない。
 
ちょうどその頃、BABYMETALはソニスフィア・フェスティバルのメインステージに立っていた。神バンドが繰り出す『BABYMETAL DEATH』のイントロに背中を押され、舞台中央へ向かってゆっくりゆっくり歩を進める女の子たちの小さな胸は、かつてない緊張と、不安と、重圧とで、いまにも張り裂けそうだったに違いない。
 
わたしたちのパフォーマンスは通用するだろうか? 本場のメタルファンに受け入れてもらえるのだろうか?
 
結果はご存じの通りである。女の子たちは見事にやり遂げた。6万人からの荒ぶるメタラーどもを力ずくでねじ伏せ、世界征服の夢がブラフでも絵空事でもないことを証明してみせたのだった。
 
このライブの一部始終をとらえたファンカムは、単に若くて可愛らしい女の子たちが歌って踊るエンタメ映像などではない。人間存在の根幹に関わるいくつもの重要な肝っ魂、すなわちマインド、ないしはスピリチュアリティがまばゆいばかりに発露し、音楽を介して拡散し、オーディエンスひとりひとりの心にじわじわと浸透してゆく奇跡的なプロセスをつぶさに撮影した、人類史上極めて意義深いドキュメンタリー映像にほかならない。
 
当時10代半ばの女の子たちが見せた驚くべき勇敢さ、ひたむきさ、自分を信じる強さ、夢の実現のためにすべてを投げ打つ敬虔さ。
 
BABYMETALは何故泣けるのか。
 
あるいは親心のようなものが一枚噛んでいるのかもしれない。まだあどけなさの残る女の子たちが懸命に戦っている姿、夢を叶えていく姿、世界中のファンに愛されている姿を目にすることで、言うなれば父兄的な、架空の保護者的な立場から感動をおぼえるのではないか。
 
加えて無常観のようなものが見え隠れするのだから手に負えない。もう二度と戻らない一瞬一瞬を全力で駆け抜けていく女の子たち、その美しさ、清々しさ、これらと表裏一体をなすところの儚さが手前のノスタルジーに混ざり合うとき、涙はとめどもなく溢れるのである。
 
そうして涙の理由はSU-METALの歌声にとどめをさす。何しろ混じりっ気がない。作為が感じられない。変なあざとさも媚びを売るようなところもない。わたしたちの鼓膜を揺すぶるのは、彼女の真っ直ぐで、誠実で、ある意味では不器用な想いそのものなのかもしれない。
 
泣けてくる理由はほかにもある。
 
楽曲それ自体のすばらしさは無論のこと、ライブにおける神バンドの鬼気迫る演奏、ほとばしる職人魂、後方から女の子たちを支え、応援し、勇気づける、その男っぷりのよさにも胸を打たれる。また、成長物語としての側面も無視することはできない。幼くしてアイドルを夢見た女の子たちの努力と、葛藤と、試行錯誤の日々。降って湧いたようなメタル音楽への貢献、逆から言えばメタル音楽という十字架──。
 
さて諸君、ハンカチの準備は出来ているか? 女の子たちのひた走る道なき道は遥か地平線の彼方へと続いている。涙はしばらく乾きそうにない。
 
(2018年5月26日改稿)

あなたに会えてよかった

「はあ、ドーム最高だったなあ」

最近やけに独り言が増えた。小さく折り畳んで引出しの奥に突っ込んだはずの心の声が、どうやら漏れ出してしまうらしいのだ。何しろくすぶっている。わたしの胸はいまだトーストみたいにあったかだ。

「またライブ行きたいなあ。今度はシンコペとテイルズからのザワンが聴きたいなあ」

あの夜わたしは退屈な日常を抜け出した。夢とも現実ともつかない時空に心身を溶け込ませ、BABYMETALを存分に楽しんだ。ライブはジ・ミッシェル・ガン・エレファント横浜アリーナ以来だったが、まさに幾千もの夜を越えて大切な何かを取り戻したという手応えを日々感じている。

「正直あと何曲かやってたら伝説だったなあ。まあ、いろいろの事情があったんだろうけども」

よくよく考えてもみると、あの大騒ぎにはもうひとつ別の側面があったように思えてくる。ありていに言ってそれは感謝の気持ちである。音楽そのものに対する「ありがとう」の表明である。だからこそわたしはあの夜、恥も外聞もなく自分のすべてを捧げることができたのではないか。

「しっかし商売上手だよなあ。ドームの2枚組とか出たら絶対買っちゃうもんなあ」

もちろん感謝するのにはそれ相応の理由がある。何しろわたしにとって音楽は親友であり、恋人であり、師匠であると同時に、ロキソニンであり、抗不安薬であり、痛いの痛いの飛んでいけの呪文であるのみならず、祈りであり、福音であり、雲間から射す光であり、その他いろいろでもあるからだ。

「次はレッチリのツアーに帯同か。レッチリとか半端なすぎて逆に笑えてくるんですけど。あの子たちどこまで行くんだろう」

そんな音楽に全力で感謝できたこと。しかもそれがBABYMETALのライブで三十路のおっさんの身に起きたこと。これは決して偶然などではない。女の子たちが、神バンドが、ひいてはチームBABYMETALが、長年わたしのなかで宙ぶらりんになっていたものをひょいと取り上げ、本来あるべき場所へ結わえ直してくれた結果にほかならない。おかげでわたしは音楽に対するあの頃の情熱を完全に取り戻したのである。

「BABYMETALに出会えて本当によかったなあ」

気のせいだろうか。例の心の声がちょいちょい漏れ出しているようにも思えるが、まあ大した問題ではなかろう。

東京ドーム公演(ブラックナイト)ライブレビュー

あいにくの荒天にも関わらず、東京ドーム周辺はファンでごった返していた。

半分以上がおっさんである。おっさんの図鑑が作れそうなほどである。一方で意識の高そうな若い男女、かつてのバンギャかもしれないお姉さまもいる。親子連れ、仲良くお越しの老夫婦、コスプレや白塗りもちらほら見える。外国人も絶えず視界に入ってくる。半時間ほど待ったところで開場となった。

自分の席を無事探し当てたわたしは、タイミングを見計らって左隣のおじさまに話しかけた。すると、さらに向こう側のお兄さまも会話に加わってくれ、わたしたちはぎくしゃくしながらも和やかに、三者三様のBABYMETALストーリーを語り合った。

やがて右隣にいかついお兄さんが座った。思い切って水を向けてみたところ、意外や意外、乃木坂48のファンだと言う。例のお姉さん経由でBABYMETALを知ったのだと言う。「まあでも、こっちはアイドルを超えちゃってますけどね」とお兄さんは苦笑するのだった。

そうこうするうちにSEがフェードアウトし、会場全体が闇に包まれた。鬨の声さながら巻き起こる大歓声のなか、わたしは決然として立ち上がり、女の子たちを迎える準備を整えた。

さあ来い。

BABYMETAL DEATH
女の子たちがステージに姿を現した瞬間、足もとで何やら鈍い金属音が聞こえた。味も素っ気もない日常にわたしを縛りつける鋼鉄の鎖がゴトリと外れる音なのだった。わたしは思わず「うおおお来たあああああ!」と叫んだ。

あわだまフィーバー
天空席である。おまけに目が悪い。だからってスクリーンばかり眺めていても仕方がない。わたしは目視確認を半ば諦めた。楽曲はすべて頭に入っているし、神バンドの演奏と女の子たちの声とが導いてくれる。

ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト 
終始トランス状態にあったわたしは、激しく首を振り、ほぼ完璧に合いの手を入れ、キツネサインを掲げ続けた。それ以外に何ができる。あっちが全力ならこっちだって全力である。

META!メタ太郎
感動的な瞬間が訪れる。なんという煽り、なんというシンガロング、なんという一体感。どうだ! 見たか世界中のヘイターども! 女の子たちを悲しませたら俺らキツネ軍団が黙っちゃいないぞ! ウォーウォーウォーだぞこの野郎!

Sis. Anger
ヘッドバンギングが自ずと深さを増す。ぐねんぐねんに乗り倒せる楽曲である。本当はもっと歌いたかったが迷惑になるのでよしておいた。

紅月-アカツキ
広い東京ドームがSU-METALの歌声で満たされる。彼女がわたしの人生に突然飛び込んできてから5ヶ月、この瞬間をどれほど待ちわびたことだろう。不思議と涙は出なかった。彼女がこれからも笑顔いっぱいの人生を送ってくれますようにと祈るばかりだった。

おねだり大作戦
盛り上がりがちょっと尋常ではなかった。いろいろの経緯もあるが改めてよく出来た楽曲だと感じ入る。「ワンフォーザマネー」から「買って買って」を経てコーラスへと向かう流れが抜群で、決して棒立ちを許さない。

NO RAIN, NO RAINBOW
SU-METALの歌声がときに優しく、ときに力強く、会場を埋め尽くす5万5千人の頭上に降り注いだ。わたしはここではじめて感極まって、涙でにじむスクリーンのなかの彼女にこう問いかけた。すぅちゃん、あなたはいったいどこまで行くつもりなんですか?

情感溢れるバラードからのリンリンリンとあって、オーディエンスのテンションが大爆発するのがわかった。地上20メートルのステージでちょこまか踊る女の子たちに内心ひやひやしながらのいまなんじー! くっそ楽しい!

メギツネ
思わずガッツポーズが出た。脳内麻薬がドバドバほとばしり、夢とも現実ともつかない時間が続いた。何回ソレソレしたかわからん。しかしあと何万回でもソレソレできただろう。

ヘドバンギャー!!
永遠の2文字がちらつきはじめたヘドバン煽りの最中、「重音部」のタオルを掲げて土下座ヘドバンするおっさんがスクリーンに映った。そうだ、わたしたち新入りは彼のようなおっさんに感謝すべきなのだ。もちろんあの伝説のホワイト・シャツ・ガイにも。

イジメ、ダメ、ゼッタイ
最後に悪い癖が出てしまった。音楽的興奮がピークに達し、禁断のエアギターをやらかしてしまったのである。それほどまでにすばらしかった。すごかった。すさまじかった。まるで暴風雨の真っ只中で踊り狂うかのような感覚だった。ありがとう女の子たち。ありがとう神バンド。最大限の敬意を込めて。

ウィーアー! ベビーメタール!