あんたのどれいのままでいい

BABYMETAL中毒者の手記

あなたに会えてよかった

「はあ、ドーム最高だったなあ」

最近やけに独り言が増えた。小さく折り畳んで引出しの奥に突っ込んだはずの心の声が、どうやら漏れ出してしまうらしいのだ。何しろくすぶっている。わたしの胸はいまだトーストみたいにあったかだ。

「またライブ行きたいなあ。今度はシンコペとテイルズからのザワンが聴きたいなあ」

あの夜わたしは退屈な日常を抜け出した。夢とも現実ともつかない時空に心身を溶け込ませ、BABYMETALを存分に楽しんだ。ライブはジ・ミッシェル・ガン・エレファント横浜アリーナ以来だったが、まさに幾千もの夜を越えて大切な何かを取り戻したという手応えを日々感じている。

「正直あと何曲かやってたら伝説だったなあ。まあ、いろいろの事情があったんだろうけども」

よくよく考えてもみると、あの大騒ぎにはもうひとつ別の側面があったように思えてくる。ありていに言ってそれは感謝の気持ちである。音楽そのものに対する「ありがとう」の表明である。だからこそわたしはあの夜、恥も外聞もなく自分のすべてを捧げることができたのではないか。

「しっかし商売上手だよなあ。ドームの2枚組とか出たら絶対買っちゃうもんなあ」

もちろん感謝するのにはそれ相応の理由がある。何しろわたしにとって音楽は親友であり、恋人であり、師匠であると同時に、ロキソニンであり、抗不安薬であり、痛いの痛いの飛んでいけの呪文であるのみならず、祈りであり、福音であり、雲間から射す光であり、その他いろいろでもあるからだ。

「次はレッチリのツアーに帯同か。レッチリとか半端なすぎて逆に笑えてくるんですけど。あの子たちどこまで行くんだろう」

そんな音楽に全力で感謝できたこと。しかもそれがBABYMETALのライブで三十路のおっさんの身に起きたこと。これは決して偶然などではない。女の子たちが、神バンドが、ひいてはチームBABYMETALが、長年わたしのなかで宙ぶらりんになっていたものをひょいと取り上げ、本来あるべき場所へ結わえ直してくれた結果にほかならない。おかげでわたしは音楽に対するあの頃の情熱を完全に取り戻したのである。

「BABYMETALに出会えて本当によかったなあ」

気のせいだろうか。例の心の声がちょいちょい漏れ出しているようにも思えるが、まあ大した問題ではなかろう。

東京ドーム公演(ブラックナイト)ライブレビュー

あいにくの荒天にも関わらず、東京ドーム周辺はファンでごった返していた。

半分以上がおっさんである。おっさんの図鑑が作れそうなほどである。一方で意識の高そうな若い男女、かつてのバンギャかもしれないお姉さまもいる。親子連れ、仲良くお越しの老夫婦、コスプレや白塗りもちらほら見える。外国人も絶えず視界に入ってくる。半時間ほど待ったところで開場となった。

自分の席を無事探し当てたわたしは、タイミングを見計らって左隣のおじさまに話しかけた。すると、さらに向こう側のお兄さまも会話に加わってくれ、わたしたちはぎくしゃくしながらも和やかに、三者三様のBABYMETALストーリーを語り合った。

やがて右隣にいかついお兄さんが座った。思い切って水を向けてみたところ、意外や意外、乃木坂48のファンだと言う。例のお姉さん経由でBABYMETALを知ったのだと言う。「まあでも、こっちはアイドルを超えちゃってますけどね」とお兄さんは苦笑するのだった。

そうこうするうちにSEがフェードアウトし、会場全体が闇に包まれた。鬨の声さながら巻き起こる大歓声のなか、わたしは決然として立ち上がり、女の子たちを迎える準備を整えた。

さあ来い。

BABYMETAL DEATH
女の子たちがステージに姿を現した瞬間、足もとで何やら鈍い金属音が聞こえた。味も素っ気もない日常にわたしを縛りつける鋼鉄の鎖がゴトリと外れる音なのだった。わたしは思わず「うおおお来たあああああ!」と叫んだ。

あわだまフィーバー
天空席である。おまけに目が悪い。だからってスクリーンばかり眺めていても仕方がない。わたしは目視確認を半ば諦めた。楽曲はすべて頭に入っているし、神バンドの演奏と女の子たちの声とが導いてくれる。

ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト 
終始トランス状態にあったわたしは、激しく首を振り、ほぼ完璧に合いの手を入れ、キツネサインを掲げ続けた。それ以外に何ができる。あっちが全力ならこっちだって全力である。

META!メタ太郎
感動的な瞬間が訪れる。なんという煽り、なんというシンガロング、なんという一体感。どうだ! 見たか世界中のヘイターども! 女の子たちを悲しませたら俺らキツネ軍団が黙っちゃいないぞ! ウォーウォーウォーだぞこの野郎!

Sis. Anger
ヘッドバンギングが自ずと深さを増す。ぐねんぐねんに乗り倒せる楽曲である。本当はもっと歌いたかったが迷惑になるのでよしておいた。

紅月-アカツキ
広い東京ドームがSU-METALの歌声で満たされる。彼女がわたしの人生に突然飛び込んできてから5ヶ月、この瞬間をどれほど待ちわびたことだろう。不思議と涙は出なかった。彼女がこれからも笑顔いっぱいの人生を送ってくれますようにと祈るばかりだった。

おねだり大作戦
盛り上がりがちょっと尋常ではなかった。いろいろの経緯もあるが改めてよく出来た楽曲だと感じ入る。「ワンフォーザマネー」から「買って買って」を経てコーラスへと向かう流れが抜群で、決して棒立ちを許さない。

NO RAIN, NO RAINBOW
SU-METALの歌声がときに優しく、ときに力強く、会場を埋め尽くす5万5千人の頭上に降り注いだ。わたしはここではじめて感極まって、涙でにじむスクリーンのなかの彼女にこう問いかけた。すぅちゃん、あなたはいったいどこまで行くつもりなんですか?

情感溢れるバラードからのリンリンリンとあって、オーディエンスのテンションが大爆発するのがわかった。地上20メートルのステージでちょこまか踊る女の子たちに内心ひやひやしながらのいまなんじー! くっそ楽しい!

メギツネ
思わずガッツポーズが出た。脳内麻薬がドバドバほとばしり、夢とも現実ともつかない時間が続いた。何回ソレソレしたかわからん。しかしあと何万回でもソレソレできただろう。

ヘドバンギャー!!
永遠の2文字がちらつきはじめたヘドバン煽りの最中、「重音部」のタオルを掲げて土下座ヘドバンするおっさんがスクリーンに映った。そうだ、わたしたち新入りは彼のようなおっさんに感謝すべきなのだ。もちろんあの伝説のホワイト・シャツ・ガイにも。

イジメ、ダメ、ゼッタイ
最後に悪い癖が出てしまった。音楽的興奮がピークに達し、禁断のエアギターをやらかしてしまったのである。それほどまでにすばらしかった。すごかった。すさまじかった。まるで暴風雨の真っ只中で踊り狂うかのような感覚だった。ありがとう女の子たち。ありがとう神バンド。最大限の敬意を込めて。

ウィーアー! ベビーメタール!

東京ドーム公演(速報)

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BABYMETALの東京ドーム公演(20日・ブラックナイト)に行ってきた。

結論から言って最高だった。

終始トランス状態で大騒ぎしていたから細かいことはほとんど憶えていないが、とにかくキンキラリーンだったと言うほかない。わたしは正式に女の子たちの奴隷になった。

開演前に周りの人たちが気さくに会話してくれたのも有難かった。おかげでリラックスしてライブに臨めた。新潟から来たおじさま、四国から遠征されたお兄さま、それからスキンヘッドのお兄さん、皆さん本当にありがとう。

詳細なライブレビューは後日。

いよいよ東京ドーム

BABYMETALの東京ドーム公演がいよいよ明日、明後日に迫った。

わたしは20日のブラックナイトのほうへ出席する段取りとなっているわけだが、お約束ながら「やだドキドキとまんなーい!」というのが現在の偽らざる心境になる。

何しろ初めての生BABYMETALである。

神バンドが最初の音を鳴らし、女の子たちがステージに現れた瞬間、わたしはわたしのよく知るわたしではなくなるだろうと思う。「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!」としか表現しようのないプリミティヴな感情が爆発し、抑制が効かなくなる予感がするのだ。

そこにはもう地蔵・オブ・地蔵のわたしはいない。知覚という知覚をあられもなくおっぴろげ、その場に生じる何もかもを全身全霊で受け止めながら、歌い、踊り、泣き、笑い、そうして一心不乱にキツネサインを掲げる奴隷がまたひとり、この地球上に出現することだろう。

座席はいわゆる天空席である。近いか、遠いかは、関係ねーと、とりま強がっておく。

危なーい!

信じられますか? わたしはBABYMETALを聴くようになってしばらくのあいだ、女の子たちがやたらとかわいいことに気付かなかった。

歌や踊りに半ば暴力的な可愛らしさを感じていたのは確かだ。しかしそれはあくまで全体から受ける圧力のようなものであって、個々の目鼻立ちだの耳の大きさだのといった細部には不思議と注意が向かなかったのである。

これにはいくつかの理由が考えられる。

(1)女の子たちがあんまり若いので無意識にブレーキを踏んでいた。(2)アイドルの容姿を盛んにうんぬんするような人間に嫌悪感を抱いていた。(3)肝心なのは音楽であって見てくれは関係ないのだぜという変な意識の高さがあった。

おそらくは以上のような理由から、わたしの脳は女の子たちの容姿をすっぱり捨象した。つまり当時のわたしが見ていたのは「若くて可愛らしい女の子たち」という「記号」が歌って踊る姿だったわけだ。なんという節穴!

ぼんやり者の目をこじ開けたのは『Live in London』のDVDだった。

何度か鑑賞するうちに危険だなと気付いた。気付いたときにはもう手遅れだった。どこからともなく現れた獰猛な可愛らしいがわたしの首根っこをつらまえ、難なく組み伏せたうえ、ゴリラ並みの腕力にものを言わせて目の前の現実に向き合うよう迫ったのである。

「危なーい!」とわたしは叫んだ。「これはもう三者三様にかわいすぎて危険なやつでしょうが! こんなにめんこい女の子たちが歌に踊りに超絶プロフェッショナルなパフォーマンスをやるんだから、そら地球全体がざわざわするわけだぜ! つーか何だこの顔! 見たことねーわこんな表情! かーわー(以下略)」

わたしはアイドルが苦手だ。

BABYMETALに関して言えばメタルの方面からうっかり迷い込んだにすぎない。

そんなわたしのスマホはいまや女の子たちの画像で膨れ上がっている。ときおり眺めては「はあ、かわいいなあ」などと溜め息をつく始末である。なんという認知的不協和

結局のところ、わたしは殺風景な部屋の窓辺に花瓶を3つ並べたのだ。そうしてそれぞれに真っ赤なブーゲンビリア、透き通るような白いユリ、元気いっぱいのヒマワリを挿したのだ。たまには花を眺めて暮らしたって罰は当たるまい。